19話 ページ19
，
飽きるほど見ていたあの美しい白を、もうおれは思い出せない。
会ったこともないそいつは、覚えているという。
美しいまま、あの日々のまま。全てがあった故郷を覚えていて、炎と血で塗れたあの悪夢を知らないのだ。想像どころか、本当に、何一つ。
運良く悲劇から逃れて、ずっと守られていたから。
フレバンスが地図から消えた日を起点に、今までの日々が脳裏を走り去っていく。心が壊れるまでの日々が鮮明にフラッシュバックして、喉に競り上がる吐き気を必死で飲み込んだ。
大丈夫、大丈夫だ。おれはもう、ドフラミンゴのところに乗り込んだときのおれじゃない。
「……ラミ」
…………嗚呼そうだ。それなら、覚えているのだろうか。
白いあざのないラミの顔を。苦痛など知りもしない笑顔を。硬い場所のない柔らかくて小さな手を。
きっとそいつには、珀鉛病はない。珀鉛病であればあの男が呑気に墓参りなんかするはずがないし、この数年旅をするのも難しい。見つかればすぐに通報されるし、人とは思えぬ扱いをされることはよく知ってる。
恐らく、珀鉛病すら知らないだろう。
「……ァ……」
……そうか。死ぬ危険も恐怖も、ないのか。
知らないから、フレバンスを怖がることも憎むこともない。
おれと、同じで。
これから先、フレバンスのことを愛したまま、生きていくのか。
「ッ……！！」
その場から弾けるように飛び出して、道を阻む木を避け草を掻き分け、弾丸のように走る。
鋭い葉に当たるたびに手が痛むが、構わず乱暴に払い除けた。向かうは港。ずいぶんうずくまっていた気がするから、また間に合わないかもしれない。
それでも、それでも。
「ハァ……ッ、ハアッ……！」
世間では「フレバンス」はほとんど禁句のようなもので、口にするのは噂好きのもの好きや珀鉛病を忌避する者達。
どんな病院に行ったって、物を投げられ罵倒され、殺せ殺せと喚かれる。
あの男も、きっとフレバンスを愛しているわけではない。そこに思い出があるから、少しの情がある程度なのだ。
あの美しい国を、もう誰も愛していないと思っていた。
おれだけが知っていて、おれだけが愛しているのだと。
違った。違うんだ。
あの男は愛していなくても、確かにフレバンスで生まれて育った、顔も名前も知らないそいつは違うんだ。
おれだけじゃ、なかった。
伸びた足を大きく開いて、転がるように坂を降りて。
とにかく走って走って走って、ようやく辿り着いた港には人だかりがあった。
その視線の先、水平線の上に、一隻の船。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 426人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ONEPIECE」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雅榴(プロフ) - 翠さん» 多分、どうせ年内には作るんだよなぁと開き直ったので尻叩きに予告してしまいました笑 休息も兼ねますので多少時間はかかりますが、気長にお待ち頂けると嬉しいです。コメントありがとうございました！ (2023年2月5日 18時) (
レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - 時雨さん» 休息も兼ねてゆっくり考えようかなと思っているので、気長にお待ち頂けると嬉しいです〜！ご期待に添えるよう頑張ります、コメントありがとうございました！ (2023年2月5日 18時) (レス) @page42 id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
翠(プロフ) - なんと…！続編も…！！最高です、本当にありがとうございます。体調にはお気をつけて。また！ (2023年2月5日 16時) (レス) id: 64131c5e87 (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - 続編ありがとうございます🙏最高です；；！この後どんな展開になるのかとても楽しみです！これからも応援しています。 (2023年2月5日 13時) (レス) @page42 id: dee2fbc24a (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - チックタックさん» ありがたいお言葉をありがとうございます！続編はうっすら考えてはいるものの、そもそも作るかを悩んでいるのでそう言って頂けると嬉しいです。コメントありがとうございました！ (2023年1月31日 12時) (レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
