十一話 ページ11
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私には、文字を書き連ねることしかできない。
それは限りなく事実で、いつか死んでいく事実だ。
ウタも、そう思ってしまっているのではないだろうか。
自分には歌しかなくて、それが故に求められることに応えることしかできないと。そこにしか自分の明確な価値はないのだと。
ウタはこの歪んで血に塗れた島で成長した。
親と慕う人達に置いて行かれて、その理由すら分からないまま生きるしかなかった。自身の価値を信じる上で欠かせない土台となっていた存在に捨てられて、何もわからなくなって。
その中で初めて得た生きる意味が、歌を聞く人々だったんだ。
ウタは彼らに救われたのだ。無垢な笑顔と純粋な言葉に。
だからこそ彼らの境遇に嘆き、寄り添い、悩んだ。
自分に生きる意味をくれた優しい彼らに相応しい時代を、と。
分かる、分かるよ、ウタ。
嬉しいよね、飛び上がるほど嬉しいよね。
自分の発信したものが、明確な言葉と感動となって返ってくる。それがどれほど嬉しくてたまらないものか。
何かを感じてくれて、何かを思ってくれた。それだけで三日三晩悩んだ甲斐があると思えるよね。報われるよね。
そしてそれが刃にもなると、感じてしまうよね。
ウタ、ウタ。みんなの歌姫。みんなの救世主。
でもあなたはそれ以前に一人の人間で、ちっぽけな女の子なんだよ。あなたが背負うべき責ではないんだよ。成し遂げるべき使命ではないんだよ。
「お願いね」
「クー」
私は赤髪への手紙を、一匹のカモメに託した。羽ばたいて、空の青へ溶け込んでいく白い翼を見送って、インクまみれの手を握る。
机にある原稿用紙の束を掴んで、用意していたカバンを肩から斜めに引っ掛ける。一晩寝ていないから少し眠いけど、なりふり構わず走った。
暁の色を横目に見ながら、ウタが眠る寝室の扉の前に原稿用紙とメモを置いて、小ぶりの石をその上に乗せる。
まだ少し夜の色が残る島を走って、原型の残る港へ。時折商人が使うそこに、私が乗るための小舟がある。
あと少しと前を向けば、ぽつりと佇む人影。
「行ってしまうのか」
大きな体躯に見合わない小さな声。
ゴードンさんは、口を微かに開けて何かを言おうとして、躊躇っている。相変わらず優柔不断で、優しい人だ。
「……やはり、この島で」
「ゴードンさん」
決めたのだ。ウタは私に失望してしまうかもしれないけど、ウタのためにやれることをやる。
「ウタを、頼みます」
「……ああ。エレジアに誓おう」
ウタは、確かに私に光をくれたから。
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雅榴(プロフ) - 樹乃さん» かなり前の作品なのに、見つけてくださってありがとうございます。何も気にせず、ひたすら書きたいものだけ書いた作品なのでとても拙いものですが、そう言って頂けて嬉しいです。コメントありがとうございました！ (10月28日 21時) (
レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
樹乃(プロフ) - あぁあ…！切ないですね、とても良いお話だと思います。最期、ウタちゃんと夢主が少しでも会話できたら良かったんですけどね… (10月28日 18時) (レス) @page16 id: df66a330f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雅榴
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Miraku/
作成日時：2023年5月2日 14時
