３６話 ページ36
，
民衆は驚く程簡単に暗殺未遂は麦わらの一味の仕業だと信じ込んでしまった。ここまで来ると最早哀れだ。何も考えず、聞いた事を真実だと思い込む。
その単純さが羨ましい。
そろそろ日が暮れる中、町中を大工が駆け回る。この時間になると店には着々とヤガラブルが戻って来る。全匹戻る頃にはすっかり風も強くなって、ポーチから覗くタオルが揺れている。
店主さんは最近あまり体の調子がよろしくないので先に避難してもらい、私は店の戸締りをして、最後に出入り口の鍵を閉めた
「まだ避難してなかったのか」
「あぁ、パウリーさん。もう時期避難しますよ、ご心配なく」
チャラリと鍵を揺らして見せる。ポケットに突っ込んで、大工を周りに従えて忙しそうなパウリーさんに微笑む。
「私に構ってないで、行かなくて大丈夫ですか？
暗殺犯、追ってるんでしょう」
「あぁ…………」
動かないので、こちらから離れるべきかと思い彼の横を通り過ぎるとブワリと強い風が背中を押す形で襲いかかる。こりゃ例年と規模が違うなと、髪を抑えて顔をしかめ、耐えようとすると振り返っていたパウリーさんと目が合う
「何か？」
「……嫌な予感がする」
「嫌な予感？」
「……何かはわからねェが、嫌な予感が」
そりゃ良い勘だ。間違っちゃいない。
彼にとって最悪の未来は、アイスバーグが死んで仲間が何人も消える事だ。私は微笑む
その未来、変えられると良いですね。
「それを何故、私に言うんです？」
「……この件が終わったら、言いてェ事がある」
「おやおや。パウリーさんに珍しく、女々しい発言ですねェ」
「うるせェ！！！」
その言い方だと私かパウリーさんが死ぬじゃん。
分かってるのか分かってないのか。抑えきれない笑いが喉を鳴らす。私の様子に照れくさそうなパウリーさんは頬を掻くが、この状況には全く似合わない
「ま、気長に待ってますよ。
犯人、捕まると良いですね」
軽く手を振って別れた。パウリーさんが手を振り返してくれたかどうかは分からない。
あーあ、皮肉皮肉。
眉を寄せ、歪に口角を上げる。
自嘲的な笑いが漏れ、ツナギのボタンに手をかける。
決断……いや、やるべき時だ。
私に決断などない。決断の権利など、ない。
この為に、この時のために彼らは五年をかけ、私は四年かけた。全てを水の泡にするわけには行かない。一度目を伏せ、前を向く。
向かう先は、避難場所ではなく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 131人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雅榴(プロフ) - マザーティラサウルスさん» 2年も前の作品を見て頂きありがとうございます！当時とても悩みながらやっていた記憶があるので、そう言って頂けると、とても嬉しいです。コメントありがとうございました！他作品でもお会い出来たら嬉しいです。 (2022年8月12日 15時) (
レス) id: 7a47bd801a (このIDを非表示/違反報告)
マザーティラサウルス - 一気読みさせていただきました！とても面白く、そして切なくて感動してしまいました。この物語を生み出してくれてありがとうございます (2022年8月12日 12時) (レス) id: 8c175f049d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雅榴
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Miraku/
作成日時：2020年1月11日 22時
