芽生え ページ11
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とある日だ。
いつもと同じように不死川が出発し、無事を祈り、帰るまで絵に没頭していた。
ようやく完成というところで、屋敷がバタバタし始める。それに気付いた彼女は絵筆を持ったまま立ち上がり、途中隣を駆け抜けようとした隠をとっ捕まえた
「あの」
「うわっ!な、なんでしょう!?」
「何事?」
「じ、実は、風柱様が」
彼女はそこまで聞いて、玄関先が騒ぎの根源だと気付き、呼び止めた隠も置いて走った。
置いていかれた隠は呆然としていたが、すぐにバタバタと走り出す。絵筆が地面を転がった。
彼女が駆けつけた先では、少々やり過ぎたのか胸に大きな傷があり、血がとめどなく溢れている。
不死川は呼吸で出血を最小限にしつつ手を当てているが、それでも指の隙間から落ちて行く
その姿を見た途端、彼女は目を見開き、我も忘れて叫んだ
「実弥君!!」
「風柱、だろうがァ……」
皮肉なまでに、いつも通りの返答である。
意識を呼吸に集中させているのか少々頼りない声だが、しっかりと応答する不死川に多少の安堵を覚える。すると不死川は自力で立ち上がり、自らの寝室へと足を運ぶ。
彼女は血で汚れようとも、迷わず不死川の脇下に滑り込み、強制的に肩を貸した。
ギョッとして引き剥がそうにも、それどころではない不死川は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、黙って歩いた
横になると途端に医療に長けた隠が彼の周りに集まる。生憎、医療には精通していない彼女はそっと後ろへ回り、不安げに見つめるばかり
「…………神様、どうか、どうか……っ」
まだ、まだ彼を連れていかないでください。
彼にはまだ使命がある。こんなところで、こんな風に死んでいい人ではないのです
ーーーー何より、私が彼と離れたくはないのです。
嗚呼 神様、どうかご慈悲を。
どうか、彼を救ってください。
彼女は祈った。初めて、彼女は祈ったのだ。
出会いに感謝せず、他者の未来の安寧を祈らず、彼女は一心に彼の無事を祈った。
押し付けがましく、烏滸がましく、愚かな祈りを彼女は神に捧げた。捧げてしまった。
その祈りは、他でもない
彼女が身につける半透明な指輪が、微かに蠢く。
しかし彼女はそれにすらも気付かず、治療が終えるまでの長時間、部屋の外で一心不乱に祈り続けた
白い薔薇の固く閉じられていた花弁が、微かに隙間を作った
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レッドクランチ - 私の中でドストライクの作品だったので終わるのが悲しい(´;ω;`)あっ最高に面白かったです!! (2019年10月7日 19時) (レス) id: 62b41d8f92 (このIDを非表示/違反報告)
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