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Aに抱いた疑問が気になりはしたが、ローはそれを確かめることは無かった。
それよりも気になることがあったからだ。
医学書の続きや能力の練習、シャチとペンギンはどう教えればどう伸びるか。
だから、特に気にもとめていなかった。
そんなある日の夕食後、ヴォルフが真面目な顔で言った。
「明日、全員でプレジャータウンに行くぞ。」
ヴォルフの信条はギブ&テイク。
この6人での共同生活が始まる時、彼らは約束していたのだ。
家賃と食費をしっかり払うこと。
その為には町で仕事に就く必要がある。
明日はその下見のようなものだった。
いつもなら明るく「大丈夫!」と声を上げるはずのAも、その日は口を開かず、4人の脳裏に不安が過ぎる。
「わしはもう寝る。明日の朝、食事をとったら直ぐに出るからな。」
どこか冷たささえ感じるヴォルフの口調に、ロー達に緊張が走る。
皆、怖かった。
4人とも縋るようにAを見るが、真っ赤に燃えるような真紅の彼女の瞳も、今日は凍ったような冷たさを孕んでいた。
「早く寝るんだよ。」
Aはそれだけ告げると、ポスン、と優しく4人の頭を順に撫でた。
そこにはいつもの優しさではなく緊張に似たものを感じて、彼らは顔を強ばらせる。
それを見て、Aは小さくため息をつくと、4人分のホットミルクを作ってやった。
ふぅ、と冷ましながら彼らがそれに口をつけ始める。
「…むかしむかし、と言っても7年くらい前のこと。」
「…?」
「ある港町の外れに、真紅の髪と瞳を持った
急に語り口調で昔話を始めたAに、少し怪訝そうな顔をする4人。
しかし、次のAの一言で彼らはハッとした。
「母親の名前はツバキ、娘の名前はA…父親は娘が産まれる前に事故で亡くなり、彼女達は母娘2人で暮らしていました。」
「え…。」
「A、それって…!」
Aは懐かしそうに、それでいてどこか寂しそうに微笑んで、話を続けた。
「彼女達の生まれ持ったその真紅の髪と瞳を、町の人々は悪魔の化身だと恐れ、迫害していました。もう亡き父親のことまで、変わり者扱いして嗤っていました。
そんなある日、ツバキは病に倒れてしまいました。迫害を受けていた彼女達を診てくれる病院は無く、当時8歳のAには…どうすることも出来ませんでした。」
伏し目がちに話すAの話をローも、ベポも、シャチも、ペンギンも……静かに聞いていた。
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睦月(プロフ) - マリンさん» コメントありがとうございます!! そう言っていただけて嬉しい限りです(´˘`*) これからも頑張っていきます!! (2021年5月31日 8時) (レス) id: e2feea5660 (このIDを非表示/違反報告)
マリン(プロフ) - ド直球に心に来ました!書き方からなにから全て凄く好きです!これからも無理せず頑張ってください (2021年5月31日 4時) (レス) id: 999a9c72ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:睦月 | 作成日時:2021年5月30日 8時