五線譜 (ページ3)

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え？

そこには真っ暗な6畳程の部屋のすみで膝を抱えて真っ青な顔をして息を荒らげる松村さんがいた。

今にも消えてしまいそうな彼の姿に喉がヒュっと狭くなる。

「っはぁ、はあ、はぁ、ひゅっ、ひゅう」

「っ松村さん？？ジェシーです。入りますね！」

慌てて彼に駆け寄る。

「こわ、い、たす、けて、おね、がい、いやだ、いやだ、いやいやいや、こわ、い」

ボロボロと涙を流してパニックになる松村さんの目は虚ろで俺の姿は映っていないみたいで、耳を塞ぎながらパニックになる松村さんを何とか助けたくて思わず抱きしめた。

「松村さん？大丈夫です。僕がいますから。

落ち着きましょう。

一緒に息しよう？大丈夫大丈夫。」

背中をトントンと一定のリズムで叩きながら一緒に深呼吸をしているとだんだん落ち着いてきたようで、彼の体に込められていた力が段々とほぐれていく。

その時トンっと肩が押された。

「あ、急に抱きしめてごめんなさい。落ち着きました？」

「…はい、ごめんなさい…。ありがとうございます。もう大丈夫。」

「お水飲みましょ？」

そう言って楽屋に置いてあった水を、手渡す。

こくこくと水を飲み下す横顔はやっぱり綺麗。

「聞かないの？」

「え？」

「何があったか聞かないの？」

「無理して言わなくていいですよ？

俺、たまたま通り掛かっただけだし。」

ほんとは、連絡先聞きに来たんだけどね。

「俺、音楽辞めるの。今日のジェシーさんとのステージが俺の最後だった。」

少しの沈黙の後告げられたのは、たぶん日本も揺るがす大ニュースだった。

.

「俺の耳、聞こえなくなるんだって」

「治療、しても、もう、治らないって」

「俺、音楽しかやってこなかったから、

音のない世界なんて、生きていける自信ない」

「もう、いなくなってしまいたい」

「音のわからない俺に、もう価値なんか…」

ボロボロと涙を零しながら話す松村さんは消えてしまいそうだった。

.

「じゃあ俺が、松村さんの耳になりますよ。」

「は？」

「松村さんが背負ってる荷物半分俺にちょうだい？」

「なんで」

「好きだから。

一目惚れしたんだ。

松村さんに。俺じゃ、ダメかな？」

気づいたらそんなことを口走っていた。