五線譜 (ページ19)

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春になった。

俺の世界は完全に音を失った。

この数ヶ月間、家からほとんど出ず、ジェシーといる時間以外はずっと音楽部屋にこもって、彼の歌を聴いていた。

何年経っても、何十年経っても、俺の耳にジェシーの声が残るように、必死に記憶したんだ。

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“ねぇ、外に出てみない？デートしようよ。”

ジェシーがそう記したノートを差し出してきた時はすごく嬉しくて。

でも、同時にすごく怖かった。

何も聞こえない世界。

電車の音も、人混みの喧騒も、カフェで流れるオシャレな音楽も、緊急事態を知らせるサイレンだって俺の耳には届かない。

ちょっと怖い。

「ふたりならこわくないよ」

俯いてしまった俺の顔を覗き込んだジェシーの唇が動く。

「ジェシーが俺の耳になってくれるんだよね？」

って聞いたら、首がもげちゃうんじゃないかってくらい彼が頷くから、ジェシーが喜んでくれるなら、デートしたいって素直に思った。

「いいよ、行こう」

やったー！って彼の口が動いて抱きしめられる。

髪の毛にちゅって唇が落ちてきて、愛されるのってなんだかくすぐったいなって思った。

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昨日は、今日のデートが楽しみすぎて、ふたりでベッドに入ってからもなかなか寝付けず、お互い寝返りを打ったりもぞもぞ動いたり。

そろそろジェシーは寝たかなってうっすら目を開けたらバッチリ目を開けたジェシーと目が合って大笑いしたりして結局真夜中まで眠れなかった。

寝る前の子守唄は今でも歌ってくれる。

声は聞こえなくても、抱き寄せられてジェシーの胸につけた耳からは、ジェシーの息継ぎや声が振動となって感じ取れる。

今日はこの曲を歌うねって教えてくれるから、ジェシーの歌う時だけちょっとだけ舌っ足らずになる甘い声を想像しながら、心で歌を聴くの。

いつもはそのうちに寝ちゃうんだけどね。

昨日は本当に寝れなかった。