五線譜 (ページ15)

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Hokuto side

真綿で首を徐々に締められていくような、息をする度に世界の酸素が薄くなってゆくような、そんな感覚だった。

去年最後の日、俺が恐怖に負けた報いだと思った。

差し伸べられた手を俺が取ってしまったばっかりに。

音を失うくらいなら消えてもいい。
そう思っていた。

人生の全てだったから。

でも、最後の日に俺はジェシーの優しさと暖かさにどうしようもなく惹かれて、大切なものを増やしてしまったんだ。

音楽一家に産まれた俺。

家族は俺に何を目指して欲しかったのだろうか。

野球選手の子供が、サッカー選手を目指してもいい。

そう知ったのは、大人になってからだったのかもしれない。

家族から受ける俺への音楽教育は、たぶん洗脳だった。

幼少期はとにかく色々な音楽に触れた。

物心がついた時にはピアノの前に座っていた気がする。いや、座らせられていたのか。

まああれはたしかに英才教育だった。

お陰で俺はプロのピアニストとして、世間的には成功したし、一生食べて行けるくらいのお金も地位も技術も手に入れた。

代わりに俺は、色々なものを犠牲にしてきた。

放課後は練習かレッスン。友だちと遊ぶ時間はない。

衣食住と学校以外の時間を全てピアノに費やしてきた。

親はコンクールでいい成績を取った時だけは、めちゃくちゃ褒めてくれて、それが俺のアイデンティティというか全てのモチベーションになっていってしまって。

そうやって、少しずつ俺は普通とかけ離れて崩れて行ったのだと思う。

親からの愛情を求めて、ピアノを弾き続けた。

俺が間違いに気づいた時には、もう十分すぎるくらい大人になってしまっていたし、親は息子が世界的なピアニストになったことに満足したのか、干渉してこなくなった。

こうやって、ピアノ以外なにもない、空っぽな人間が、出来上がった。

音楽は大好きだ。子供から大人まで、性別も年齢も国籍も関係なく、誰にでも伝わるから。

聞こえさえすればね。

世界はいつでも残酷だ。