五線譜 (ページ14)

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「おつかれさまでーす」

ツアーの打ち合わせを終えて、時計を見れば12時少し前を示している。

ちょうどお昼時だし、たまには外で北斗とランチしようかな。

名前も顔も世間に知れている北斗は、あまり外に出たがらない。

難聴が進行していっているのもあって、買い物もインターネットで済ませているし、今まで俺と外でデートすることもほとんどなかった。

気分転換にも良いかな、なんてね。

本当は俺が外でデートしたいだけなんだけど。

ほら、恋人と手繋いで昼下がりに街をぶらぶらするのってなんか憧れない？？

“仕事終わったよ。お昼まだだったら、外でランチしない？”

緑のアプリを起動し、チャットを開く。

いつもは数分以内にはつく既読が、今日だけつかないのに少し気を取られながら、帰り道を急いだ。

「ただいまー、ほくとー」

シーンと静まりかえる室内。

リビングのドアを開けるも、北斗の姿はなくて。

お昼まで寝てるのなんて珍しいな、と思いながら寝室のドアを開ける。

ここにも北斗はいない。

じゃあ、俺の仕事部屋か。また曲作りでもしてるのかな？？と思い、ドアに手をかける。

.

あ”ー！！！！！
なんで俺なんだよ！
こんなに、頑張ってきた、のに！
なんで待ってくれねぇんだよ！悔しい…悔しい！！
なんで！なんで！なんで…なんで俺なの…。

.

そこには俺の見た事のない北斗がいた。

自分のことを手当たり次第に殴って、抓って、引っ掻いて、泣きわめき、必死に心の痛みと闘う北斗がいた。

心がヒュンと冷たくなる。

俺はなんて馬鹿なんだ。

音をなくしていく北斗が平気な訳ないじゃないか。

音楽に生きてきた彼が、人生の全てだったものを失う。

その苦しみを、辛さを半分背負うと言った俺が、彼に余計な荷物まで背負わせているではないか。こんなの恋人失格だ。

ちゃんと見てなきゃいけなかったのに…

俺は北斗の優しさに甘えていただけだ。

「ほくと、ごめん。ごめん。本当にごめん。

守ってあげられなくてごめん。

気づいてやれなくてごめん。」

どんなに拒否されても、自分で自分を傷つける北斗を見ていられなくて、ひたすら謝りながら、暴れる北斗を力いっぱい抱きしめた。

北斗が俺の腕の中で力尽きる頃には、日はすっかり傾いていて、窓から差し込む西日がやけに目に染みた。