五線譜 (ページ12)

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「気に入った？？」

「うん、楽しい。」

「俺が使わない時だったら何時でも使っていいよ？」

「いいの？？」

「この部屋一応防音だから、大きい音出しても大丈夫だからね。好きなだけどうぞ。」

そう言って頭を撫でると、嬉しそうに擦り寄ってくる。

ぶんぶん振り回してるしっぽが見えるようで、やっぱりこの人は可愛いなと思った。

この日以来、彼は俺が仕事に行っている間は俺の音楽部屋で過ごしているようだった。

何をしているのかは見せてくれないけれど、音楽に触れている彼はやっぱり楽しそうだった。

でもそれに反して、北斗の左耳の聴力はみるみる間に落ちていってしまった。

周りの音が消えていく感覚なんて、理解してあげることは出来ない。

ジェシーの胸の音が聞こえない、と泣いた朝。

俺は北斗をただただ抱きしめてあげることしか出来なかった。

北斗が好きだよ、愛してるよ。ずっとそばに居るから。

そんな言葉も全部陳腐なものになってしまう。

「ジェシー、俺が聞こえなくなる前に、歌沢山歌って聞かせて？

ジェシーの声覚えておきたい。」

腕の中でぐすっと鼻をすすりながら、俺を見上げた北斗の顔は涙でぐしょぐしょだったけどやっぱり美しかった。

「ほくちゃん、目擦ったら赤くなっちゃうよ」

「じゃあ泣き止ませてよ」

唇をとがらせながらそんな可愛いことを言うけど、北斗を泣き止ませる手段はあまり持っていなくて、流れてくる涙をちゅっちゅっと唇でそっと受け止める。

そんな俺にされるがままになっていた北斗は、少しして泣き止んだあと、俺のスウェットの裾をきゅっと掴んで

「どこにも行かないでね、ジェシー」

って儚げに笑った。

その日から、北斗が眠りにつくまで子守唄を歌うのが俺のルーティーンに加わった。