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カサッと小さく音が立つのを感じ、息を殺して旧校舎の校庭へと入った。こんなにワクワクするのはいつぶりだろうか、小学生の頃、親友と共に体育倉庫へ侵入した時の事が思い出される。ごく普通の体育倉庫に入っただけだというのに、そんな小さな"悪戯"でも胸が踊ったのを確かに覚えている。
もっとも、自分一人でそんなことをする勇気は無かったし、その親友に会おうにももうどうにもならない。
私は、死んでしまったのだから。
救済なんてもの存在しない。神様の慈悲という名の呪いで悪女に転生したが、私は自決したのだ。事故じゃない、自ら死を選んだ。ヒロインになれないのはこれも原因なのだろうか。
私の知る転生ヒロインは、間違えて死ぬ場合が多い。私の死因とは真反対じゃないか。
「コネシマさん……どこに居んの、これ」
アイナが嘘を吐くはずが無い。別に彼女を信頼している訳ではないが、嘘を吐くメリットも無ければ───こう言ってしまうのは気が引けるが───嘘を吐くほどの脳も無いだろう。だって、彼女はヒロインなのだから。純粋で天然で、正直者。
でも、こんなに見つからないものだろうか。旧校舎は名前通り前の校舎なので、どこもかしこも色褪せている。一際綺麗な芝生のところなんて無いじゃないか。
「無理無理無理……虫しか居ないやんけ。これのどこが綺麗なんだよ……」
誰も居ないのをいいことに、ぶつぶつと悪態を吐きながら下生えを駆け抜ける。今日はあの日と同じ快晴───ではなく、薄っすらと灰色の雲が浮かび、あまり嬉しくない生暖かい空気が漂っている。
こうして走っていても気持ち良さなど全く感じず、ただ早くコネシマさんを見つけたい一心で足を動かした。
黒い髪が忙しなく揺れ、どうも邪魔に感じる。結んでしまいたいが、私は小学生と比べても圧倒的に不器用であり、髪を結うことすらできないのだ。
邪魔くさい髪と見当たらない金髪に苛立ちを感じながら溜息を吐くと、視界の端に黒い何かが映った。
「───猫。猫なんて、どうして……」
迷い込んでしまったのだろうか。だとしたら可哀想だと思い、助けてやろうと黒猫にゆっくり近付いた。黒猫は緑色の目でじっと私を見つめると、さっと尻尾を振って走り出した。
思わずその黒い尻尾を追い掛けて走り出し、疲れと苛立ちも忘れてひたすら走った。
やがて息が上がって立ち止まった頃には、校舎の裏側に着いていた。優に笑っている黒猫を見て腹が立つ。
「───Aちゃん？」
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