▼一章 物語の悪女は「あなた」 ページ3
───まるで幻でも見ているようだ。
私はあの日、あの素晴らしい快晴の日に、学校の屋上から"諦め"を選んだはずだった。
だというのに、今こうして自らの身体を持ち、傷が付くどころか精神状態も安定している。ここは天国なのではないかとも思ったが、どうも自分が死んだと認識できないのだ。
これが"死"というものの常識なのかもしれないが、知らずとも私には分かった、これは普通の"死"ではない。
「───誰か居ませんか？」
恐る恐る声を出して、やっと気が付いた。嫌になるほど聞いた自分の声ではない、他の誰かの声。でも今ここには私しか居ない。これは私の声？
はっとして自分の身体を見た。鏡なんてものは当然無く顔は見れなかったが、服装くらいは確認できた。
───何もかも違う。私じゃない。
これは、転生したと言うべきだろうか。
そこそこ大きな学校の屋上から飛び降りて助かる人間はまず居ない。だからあの場所を選んだのだ。
私はあの時、確実に死んだ。なら何故生きているんだ。ここはどこなんだ。
疑問ばかりが過ぎり、見るともなく上を見た。思わずぎょっとして息を詰まらせた。先程までは確実に居なかったであろう誰かが、私を見下ろしている。
「あ、貴方は───」
「はじめまして。僕は……神様だよ」
私を見下ろす青年は、優しく微笑み自己紹介をすると、さっと表情を曇らせた。
「助けてあげられなくてごめんね。僕は君を───死に追いやった」
「……神様なのに？」
「……神様なのに」
私の言葉を復唱し溜め息を吐くと、神様と名乗る青年は自分を励ますように首を振った。死に追いやった、というのはどういう事か聞いてみようと思ったが、やめておいた。
何故だかは分からないが、絶対に話してくれないと確信していたから。
「ところで……神様？どうして私を生かしたんですか？」
「僕は君を生かしてない……死なせたんだ」
「……そうですか。では私はどうすればいいんですか？ここがどこなのかも分からないし」
「君は確か好きな実況者さんが居たよね？」
神様でも実況者というものを知っている事に驚き、好奇心を顕にしながら首肯した。
「えっと、凄く言い難いんだけどね……君は実況者の彼らが"高校生"として暮らしている、パラレルワールドで悪女の役をする事になっちゃったんだ」
「は？」
「ほ、ほら……物語には悪女が必要不可欠だろ？」
なんで私が、と言いかけた口を閉じ、渋々頷いた。このまま見捨てられるよりは、幾分かマシだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 173人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
