いらないもの ページ2
夜が好きだった。
この醜い私を、醜い世界を、全部包んでくれるから。
私を産んだ人たちは、最低辺と呼ばれるものだった。毎日、自分の子供を殴り、蹴り、時には殺した。物心ついた時には六人いた兄姉は、今ではもう一人もいなくなっていた。
だから私は、当然"普通"の暮らしなんて出来る筈もなく、塵のように生きていた。
鼠一匹捕まえることが出来たら良い方だ。一ヶ月、泥水だけを啜って生きたこともあった。
私は、足だけが取り柄だった。殴られても、蹴られても、死にたく無かったから、何時も必死でにげた。
「気持ち悪いわね!!こっち見ないでちょうだい!あぁ、なんて気色の悪い目をしてるの!あんたなんか産まなきゃ良かった!!死ね!死ね!」
そう言って、拳を振るははおやが嫌いだった。
「ふん!まだ生きていたのか。全く煩わしい。お前なんか早く死んでしまえ!!」
そう言って、私を冷たい水の中に突っ込むちちおやが嫌いだった。
だから、だから、私は歓喜したのだ。
ツンと鼻をつく血の臭いに。
家中に飛び散る真っ赤な液体に。
痛い痛いと叫ぶ二人の人間に。
彼奴等を滅多刺しにしていたのは、時々家に出入りする男だった。
確か、彼奴等に金を迫られていたと記憶している。
私が居ることに気付きもしないその男の顔は、怒りと喜びに染まっていた。
ピュッ、と私の頬に生暖かいものが飛ぶ。
「は、どうだ!痛いか?苦しいか?よくも俺をあんな目に遭わせたな!!精々地獄で後悔しろ!!」
痛い助けて、と、また彼奴等が叫んだ。
ざまあみろ、と思った。
この人なら、私を助けてくれるだろうか。
「ねぇ、わたしをたすけてほしいの」
その時初めて私の存在に気付いた男は、驚きに顔を歪ませた。
「チッ、なんだお前、見てたのか。此奴等の子供か。こうしちゃいられねぇなぁ───」
───お前も殺してやる。
男の言葉が最後まで聞こえないうちに、私は駆け出した。
信じた私が馬鹿だった。
そんなわけないんだ。
気持ち悪い瞳を持った私なんて、誰もいらない。
通り過ぎる周りの景色が、随分と遅く感じられた。
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作者名:しましま二世 | 作成日時:2020年11月27日 16時