泣いた先の向こう [鬼滅の刃] ″肆″

″漆″＿＿ ページ5

伊黒side

あの時の目を、俺は忘れない

いや、忘れられなかった

伊黒「お前は何を見ていた。あの最終選別の時、鬼を倒した時、何を見ていたんだ。答えろ」

『……』

伊黒「目的もなく最終選別を受けた訳ではないだろう」

あの最終選別

誰もが恐怖を感じただろう

だが泣咲からは恐怖を感じている様子など一切無かった

伊黒「何故平気で他人を、自分を傷付ける」

『…他人を傷付けるなんて、人聞きが悪いな。さっき言っただろう。頼まれたからだ、それに隊士同士で刀を抜くのが御法度なのも知っている。頼まれなきゃしないし、したくもない。自分を傷付ける事に関しては戦いをより有利にする為にした。どうせ治る、大した事じゃない』

伊黒「…最終選別を受けた理由は何だ？」

『聞いて何になる？』

伊黒「聞き返すな、まずは俺の質問に答えろ」

『…鬼が居なければ、普通に生きられる人も沢山いる。家族を失う事も、友を失う事も、想い人を失う事も、死の恐怖に晒される事もない。鬼が存在する、それだけで何人、何十人、何百人が不幸になり死ぬ。死ねば楽なのかもしれない。でも…死ねずにただ不幸が続くのは地獄だ。鬼が、ただただ憎い』

鬼が居なければ

それは何度も思った

鬼が居なければ、俺は座敷牢に閉じ込められる事も無かった

口を切り裂かれる事も無かった

正当性のない罵詈雑言を言われる事も無かった

俺は鬼が憎い

同じ気持ちを持っている

だが、コイツは自分をないがしろにする

そんな奴だと思った

そしてやはり、懐かしいと思った

そして俺がこの違和感の正体に気付くのは、五年後だった









❦ℯꫛᎴ❧

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