愛するということ ページ50
帰り道。
落ちかけていた鞄を肩にかけ直しながら空を仰ぐ。
遠くに見える空は建物と重なってよく見えないが、多分今みたいな時が黄昏時って言うんだろうなぁっと密かに思いながら歩いていた。
さっきまで道に伸びていた影は電灯の明かりにしか反応しなくなり、家屋の明かりは蛍の光のようにぽつりぽつりと灯っていく。
人々は家に帰るために足を急がせる時間だ。
駅へと急ぐ人々の間を器用にくぐり抜けながら前方に顔を向けると、大きな帝国図書館はもう見えた。
ちらほらと明かりが灯っていくのが遠くからでもよく分かり、その明かりの多さに文豪さんがどれだけいるのかがよく分かった。
『…最近は文豪さん達も増えたしなぁ』
そう、最初よりも何十人も増えた。
こんなに大きい玄関が果たしているのだろうかと首を傾げた時もあった。
談話室のソファーの数に呆れた時もあった。
広すぎる中庭にどうしろって言うんだと頭を抑えた時もあった。
けど、今考えて思う。それは皆、こんなに増えた文豪さん達を迎えるためにあったんだと。
大きいと感じていた玄関は沢山の文豪さん達が食堂に行くため、潜書室に行くためなどの理由で行き交う交差点のような意味をなしていた。
多すぎると感じていた談話室のソファーは今やいっぱいになり立つ人が続出するまでになっていた。
広すぎると感じていた中庭は文豪さん達の癒しの場所にもなっているし、春夏秋冬に色々な顔を見せてくれている。
その全てに、ちゃんと意味があった。
何気なく時計を眺めて、今日の夕飯には間に合いそうなことを確認すると足は自然に早歩きになる。
今日の夕飯は確か鍋にすると聞いた。
私は司書になる前までは鍋なんて何年も食べていなかったけど、帝国図書館に来て分かる。
鍋は一人ではあまり食べない。
あれは大人数で食べてこそ意味があるものだと。
帝國図書館では沢山のことを学んだ。
共感できる嬉しさを知った。
怒ってくれる人がいるということが、どんなに大切な存在なのかを感じられた。
帰った時、『ただいま』が言える環境があった。
『おかえり』と返してくれる人がいた。
そんな幸せを愛せることができた。
私は【帝國図書館】と書かれた門を抜け、大きな扉に手をかけると思いっきり手前に引いた。
なんて言えばいいかなんてもう分かっている。
『…ただいま！』
愛することは命がけだよ。
甘いとは思わない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 45人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
結愛 - 文アル歴早三年このお話お気に入りになった (2023年3月18日 22時) (
レス) @page9 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
法蓮草(プロフ) - 最中さん» わー！！ありがとうございます！！！これからも精進していきたいと思います！！ (2018年8月27日 22時) (レス) id: 6397094652 (このIDを非表示/違反報告)
最中 - 文アル最近始めたんですけど、この小説好きです！これからも頑張って下さい！ (2018年8月27日 1時) (レス) id: 4af8f25fc3 (このIDを非表示/違反報告)
法蓮草(プロフ) - 下野月さん» わー！ありがとうございます！！これを励みにもっともっと頑張ります！！(°▽°) (2018年5月15日 14時) (レス) id: 6397094652 (このIDを非表示/違反報告)
下野月(プロフ) - いつも読ませてもらってます！法蓮草さんの書く小説は本当に大好きです！これからも頑張って下さい！ (2018年5月15日 13時) (レス) id: 18e714d719 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：法蓮草 | 作成日時：2018年4月6日 21時
