39話 ページ39
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なんて、自分の中で湧いた感情は拳を握って押し留めた。
「謝ったら許さないからって」
言葉の最後、思い出すようにふふ、と笑う。
悲しそうにも見えたし、嬉しそうにも見えた。
Aはよく、こういう反する表情を同時に浮かべて、いつもよりぐんと大人っぽくなる。
「…………それは、」
「優しさだと私は思ったけどね」
「優しさ?」
「そう。私も、その子の言葉で傷つかなかったわけじゃないから」
それを聞いて、友人達のAは高嶺だという会話が頭をよぎった。
彼女の容姿は確かに目を引いて、きっと多くの注目を浴びるから、ぶつけられた言葉と同じ思いを抱く人だって少なからずいるんだ。
顔が良いからって、だなんて。
絶対、そんなことないのに。
「Aはさ、最初から優しかったと思うよ」
「えっ……?」
がっと顔を上げたAはまん丸く目を見開いて、驚愕を余すところなく浮かべている。
数秒固まって、戸惑うように弱く首を横に振った。
Aが何か言う前に、続ける。
「それまでなんの関係も無かった人と拗れたからって、普通、そんな必死に努力出来ない。と、俺は思う」
自分が傷つけた、とか。
申し訳ない、とか。
失礼だったと、繰り返したくないと。
今までの自分を見つめ直して、考えて、必死に追いつこうとして、ただ真っ直ぐ目標だけを見つめ続けていける人。
意外といないものだ。そんな人。
人は誰だって、嫌な記憶には蓋をして、喧嘩も無かったことにしたがる。
Aみたいな純粋さは、稀で、誇っていいものだと、俺は強く思うのだ。
「でもだって、それは赤葦が」
「だとしても。今この瞬間のAがいるのは、Aが諦めずに努力出来る人だからだよ。そこに俺は関係ない。根の優しい、真っ白なAだからこそ……あ、白福って苗字、ぴったりだね」
面白くなってAを見ると、見間違いじゃなければ、頬に綺麗な朱が差してた。
思わずぎょっとしてヘーゼルを見つめると、一瞬だけ、きらりと。
「……前から思ってたけど、赤葦は私に甘いよ」
「そうかな」
「そう。絶対そう。甘い。私が我儘ばかりの女王様みたいになったら赤葦のせいだから。責任感じてね」
「そうなったらどうなるの」
「お姉ちゃんに怒られる」
「こわっ」
二人一緒に噴き出して、顔を合わせてくすくす笑い続けた。
でもありがとう、とAは小さく呟いた。
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飛鳥(プロフ) - シェルファさん» コメントありがとうございます!お待たせしてしまい申し訳ありません今公開しました!引き続きよろしくお願いします! (2019年6月30日 15時) (レス) id: d93720a371 (このIDを非表示/違反報告)
シェルファ(プロフ) - あー、早く続編が見たいです! (2019年6月30日 11時) (レス) id: ed405ee373 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛鳥 | 作成日時:2019年5月4日 23時