38話 ページ38
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「会ったよ」
こちらに目をやったAは笑って、なんともなさげにそう言うもんだから、少なからず驚いて、
「会ったの?」
「うん。会ったっていうか会いに行った。しかもその日のうちにね。赤葦のとこから走って教室行って荷物取って、家まで」
「家知ってたんだ」
「奈子が知ってた」
柳原さんの情報量。
思わず呟くとAが噴き出した。
何がそんなにツボなんだろう……Aも人の事言えない。
本人にあってあげなよ、と言われるけど伝えたところで何にもならないと思う。
彼女俺の事どう思ってるのか分からないし。
「私赤葦と奈子が仲良くなったら嬉しいなあ。出来れば私のいないとこで」
「そう言われてもな……だいたいなんで?」
「面白いじゃん。私の友達同士が私の仲介無しに接触したらさ、どういう距離感になるのかなって」
「面白いって……俺らを一人にしないでよ」
「二人で仲良くなればいいんだよ」
無茶振りだ。
そもそもあれ以降、柳原さんと特に話した記憶が無い。
もともとあれが初めてだったんだし、用も無いし席も遠いし、接触するきっかけが皆無だ。
というか、本気だなんだと随分小っ恥ずかしい話をした気でいるから、どんなテンションで次話していいやら。困る。
いやあっちが振ってきたんだけど。
そこで、はたと気づく。
全体像すら見えていなかったパズルが、一気にピースが集まってきて完成した気分。
あの日柳原さんは言ったのだ。
「いいよ。本気なら」
「……柳原さんAの親?」
「蹴るよ。そういうんじゃなくて」
女子に蹴ると脅されたのは初めてだったから一瞬身を固くしたけど、さっきまでの警戒と不安を下ろして口角を持ち上げる姿は、一瞬で脳に焼き付いた。
「本気なら、本気で守ってくれるでしょ」
傷つけないでよ。
真綿のような優しい声で、俺の横を通り過ぎて行った、彼女の言葉の意味。
はっとした。これかと。
柳原さんが持ってた警戒も不安も、Aがもう一度噂や陰口や直接的な言葉に巻かれることを危惧したものだったんだ。
その時の相手は、どうしてたんだろうか。
知ってたのか、何もしなかったのか。
どっちにしたって、俺は、絶対。
「会いに行って、どうだった?」
「初めはね、謝ろうと思ったんだけどね」
苦笑して頬を掻くAを、抱きしめたいと思った。
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飛鳥(プロフ) - シェルファさん» コメントありがとうございます!お待たせしてしまい申し訳ありません今公開しました!引き続きよろしくお願いします! (2019年6月30日 15時) (レス) id: d93720a371 (このIDを非表示/違反報告)
シェルファ(プロフ) - あー、早く続編が見たいです! (2019年6月30日 11時) (レス) id: ed405ee373 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛鳥 | 作成日時:2019年5月4日 23時