35話 ページ35
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傘立てまで自分の傘を取りに行って昇降口から出ると、ぼやっと雨を眺めているAがいる。
焦げ茶のスクールバッグを抱え込んで、憂いたような伏し目で。
まだ、消えそう。
「A、お待たせ」
「赤葦、ねえ、これは弱くなったのかな?」
「どうだろう……若干?でももうそろそろ帰らないと暗くなるし」
「お姉ちゃんにお風呂沸かしておいてもらお」
バッグをがさごそやる姿はもう見慣れたものだ。部活終わりにもだいたい同じことをやってる。
相変わらず携帯の存在を気にかけないな……
半ば呆れながら見守って、終わったのを見計らって傘を開く。
多分バッグに仕舞われた携帯はもう数日は日の目を見ないだろう。可哀想に。
内心哀れんでいると、俺の顔色を窺うように覗き込んでおろおろするAの姿が映った。
思わず笑ってしまう。
「な、なんで笑うの…」
「いや、ごめ……ふふ、んん」
「赤葦のツボよくわかんない」
「Aに言われたくないけどね。はい、入っていいよ」
言うと、失礼します、なんて敬語で頭を下げてから小さな歩幅で歩み寄る。
律儀だ。
入れていくって最初に言ってあったのだから気にせず入ればいいのに。
でもそれが、さっきの話の通りなら、それは彼女の努力の賜物なのだろう。
俺には想像もつかない。
いつだって優しく穏やかで、魅力に溢れるAの、そうでない姿なんて。
それすらも、彼女の行く道の証明なのだろうか。
「おーい赤葦」
「う、わ」
咄嗟に仰け反った。
考え事に気を取られていたら、いつの間にかAの顔が随分近くにあって。
じわ、と熱が集まるのが分かる。
端正だから、ていうのも無いわけじゃないけど何より、好きな人だから。
急に距離を詰められるとどうにも心臓がうるさくていけない。
「うわって……全然返事しないからつまんだのに」
「ごめん、びっくりして。なんて言った?」
「早く帰ろうって言ったの。暗くなるって言ったの赤葦でしょう」
呆れ顔で息をつくAが俺の制服の袖を離す。
つままれたのさえ気づかなかった。
完全に意識飛ばしてたな。
「本当ごめん、じゃあ行こっか」
「うん。赤葦大丈夫?そっち濡れない?」
「濡れないよ。Aこそ、危なかったら遠慮せずもっと入っていいからね」
言ってから気づいた。
それはそれで俺がやばくないか?
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飛鳥(プロフ) - シェルファさん» コメントありがとうございます!お待たせしてしまい申し訳ありません今公開しました!引き続きよろしくお願いします! (2019年6月30日 15時) (レス) id: d93720a371 (このIDを非表示/違反報告)
シェルファ(プロフ) - あー、早く続編が見たいです! (2019年6月30日 11時) (レス) id: ed405ee373 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛鳥 | 作成日時:2019年5月4日 23時