30話 ページ30
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中学生最後の夏。
今日と同じように、放課後の教室で告白をされた。
体温よりずっと高い気温と、窓から刺すような西日が、酷い日だった。
その人は、なんとも失礼な話だけれど、全く知らない人だった。
名前はもちろん、顔さえ見たことがない。
だから当然、断った。
知らない人と恋人になんてなれっこない。
そういう感じのことを、たどたどしく伝えたと思う。
こういうことは初めてでは無かったから、これで引いてくれるだろうと、思っていた。
けど、彼は違った。
彼はそれでもと食い下がった。
君が好きだからと。
どうしてもと。
好きになってくれなくてもいいと。
何度断っても彼は立ち塞がる。
それなら、じゃあ、なんて接続を並べて、決して私を帰してはくれなかった。
端的に言ってしまえば、しつこい人だった。
おそらく三十分くらい、そのやり取りをしていたと思う。
私は困り果ててしまって、そして余りの押しの強さに。
根負け、と言ったらアレだけれど、好きじゃなくてもいいなら、と返事をしてしまったのだ。
元々私はこういう性格だった。
人に強く出られると、上手く意志を通せない。最後は結局折れてしまう。
それは私が、多く人と関わらず、意思疎通を図らずに生きてきたから染み付いた癖なのかもしれないけれど。
私が応えると、彼は途端に必死さを消して、嬉しそうにはにかんだ。
実際、ちゃんと私のことを好きでいてくれたんだと思う。
沢山気を使ってくれたし、いつも笑っていた。
私が上手く話せなくても、笑い所に困っても、彼はずっと喋り続けてくれたし、今笑うところ、って教えてくれた。
懸命に、必死に。
楽しそうに、嬉しそうに。
私がどうやっても自分を好きにならないと、分かっていたはずなのに。
それでもいいよ。俺は君が好きだから。
彼が何度も唱えていた言葉だ。
音が耳に残るくらい何度も聞いた。
もしかしたら暗示だったのでは、と今の私なら思う。当時は分からなかった。
いい人だった。ちゃんと。
いい人だったけど、一つだけ。
私達を拗れさせる問題を抱えていた。
彼には彼女がいた。
私に告白するほんの数分前に別れた彼女が。
つまり、彼女に別れを告げたその足で、私に愛を告げたのだ。
別れた理由は、他に好きな人が出来たから。
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飛鳥(プロフ) - シェルファさん» コメントありがとうございます!お待たせしてしまい申し訳ありません今公開しました!引き続きよろしくお願いします! (2019年6月30日 15時) (レス) id: d93720a371 (このIDを非表示/違反報告)
シェルファ(プロフ) - あー、早く続編が見たいです! (2019年6月30日 11時) (レス) id: ed405ee373 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛鳥 | 作成日時:2019年5月4日 23時