28話 ページ28
・
けれどそこで、確かに俺の奥の奥で存在している、心底この結果に安堵している自分に息をさせるわけにはいかなかった。
だって中にはまだAがいる。
というかここからが本番みたいなとこある。
今ここで動いてAに気づかれれば、それこそ詰みってやつだ。
そう思って息を潜めて、十数秒待った。
けれど、一向にAは出てこないし、そもそも物音一つしない。
結局、痺れを切らした俺は、立ち上がって中に入るという決断を下した。
初めて入る三組の教室は、廊下より幾分か温度が低いように感じた。
一瞬、本当にいなくなったかと思った、けど。
「…………A」
「あ、かあし……」
Aは、最初に見た場所から一歩も動いていなかった。
ただ、その場に座り込んでいた。
苦しそうに、俺を見上げる。
まるで、どこか冷たくて辛い、酷い所から出てこられない、みたいな。
絡んで解けなくなりそうな目に若干狼狽えながらも、咄嗟に振り払って傍に駆け寄った。
いつもみたいにしゃがみ込む。
けれど、Aがほっと安堵した顔をすることはなかった。
ああ、やめてくれ。
お願いだから、そんな顔しないで。
「?赤葦、手……」
完全に無意識的な行動だったけど、もうどうでもいい。
なんて、小さい手だろう。
俺の片手だけで、隠してしまうには十分な大きさ。
泣きたくなるぐらい白くて細い。
「ごめんA。さっきの、聞いてた」
「え、あ……」
小さくて、柔くて、強く握ればそこから砕けて無くなりそうで怖い。
「そんなつもりは無かったんだけど。止まっちゃって」
「いや、いいよ、平気…………大丈夫」
なのに離したら、あっという間に透けて、全部消えていきそうで、怖い。
あの日みたいに、泣いて、びっくりして、仰け反って、呆気にとられて。
それで止まってくれたらどんなに楽か。
今のAは泣きそうに見えるのに泣きはしないし、驚かないし、動かないし、眉は下がるばかりで。
吐き出せないまま、小さい子が不器用にも強がりを覚えたように、上手く付けられないのに必死に仮面を当てて笑うように。
掠れた声で、うわ言のように大丈夫を繰り返した。
こんなに心臓に迫る恐怖を、今まで感じたことは無い。
大丈夫なわけ、ないだろ……
・
132人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
飛鳥(プロフ) - シェルファさん» コメントありがとうございます!お待たせしてしまい申し訳ありません今公開しました!引き続きよろしくお願いします! (2019年6月30日 15時) (レス) id: d93720a371 (このIDを非表示/違反報告)
シェルファ(プロフ) - あー、早く続編が見たいです! (2019年6月30日 11時) (レス) id: ed405ee373 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:飛鳥 | 作成日時:2019年5月4日 23時