16話 ページ16
・
ほんとうずるい。
そしていじわるだ。
ぐるり、都合の良い考えが頭の中を巡る。
嘘だ。そんなわけない。
赤葦は優しい、とても。きっと、誰にでも。
期待してしまう。まだそんな勇気もないのに。
やめた方いいのは、分かってる。
赤葦を想う人はきっと沢山いる。
今度傷つくのは、一人ではないかもしれない。
私そういうの上手じゃないし。
半年頑張ってきたつもりだけど、まだちょっとこわい。
一回人間関係でごたつくと、その後も臆病になって困る。
でも、それでも。
もし中途半端でなくて、心からの気持ちだったとしたら。
望んでみても、いいのかな。
「ねえ赤葦」
電車がくるまであと三分。
ん?と意識的かは分からないけれど、少しだけかがんでくれる赤葦に、ちょっとだけ近づく気持ちで。
気づいてかがんでくれたのは、赤葦だけだから。
「さっきので思ったんだけど、白福、って先輩のこと呼び捨てにしてるみたいでドキドキしない?」
「あー、まあ多少は?変な気分ではあるかな」
「うん、だからAでいいよ」
呼び方、と付け加えて反応を窺う。
これくらい、いいよね。
真顔だった赤葦が、くすりと笑いを零した。
錯覚だろうけど嬉しそうに見えて少し恥ずかしいけど、なんだかぽかぽかする気もする。
「分かった」
気恥しいような、はにかんだような、そんな珍しいというか見たことない笑い方をして頷いた。
ぱっと時刻表を見て、左腕の腕時計を見て、また私を見る。
二回目に会った時、初めてかがんでくれる人に出会えたのが嬉しかったのを、よく覚えてる。
「A」
「なあに」
「もう電車くるよ」
その言葉が終わると同時に電車の音が聞こえ始めた。
自分の名前が、なんだか大事に大事に仕舞われていた懐かしい思い出のように、じわりと心に染み込んでいく。
あの日、愛おしむみたいに笑った赤葦の顔が、熱が、目の奥に蘇ってきて、
顔を見れなくて、俯いた。
・
132人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
飛鳥(プロフ) - シェルファさん» コメントありがとうございます!お待たせしてしまい申し訳ありません今公開しました!引き続きよろしくお願いします! (2019年6月30日 15時) (レス) id: d93720a371 (このIDを非表示/違反報告)
シェルファ(プロフ) - あー、早く続編が見たいです! (2019年6月30日 11時) (レス) id: ed405ee373 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:飛鳥 | 作成日時:2019年5月4日 23時