11話 ページ11
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綺麗な顔が目の前にくる。
ばっちりと目が合って、びっくりして仰け反る私にはお構い無し、ハンカチを握った彼は口を開く。
「すみません」
何が?と問う間もなく長い腕が伸びてきて、とん、と。
ハンカチが、私の頬に優しく当てられた。
そのまま、とんとん、と二回叩いて、それからするりと目元まで上がってくる。
目のふちに溜まっていた水がゆっくりハンカチに染み込んでいった。
ここまで全部、スローモーションみたいだった。
え、すみませんってそういう……?
状況を理解した瞬間、私の体は機敏に動いた。
反射的に後ろに下がる。
「うぇ!?いっっっっ、た……」
その結果、後ろの校舎に全力で頭をぶつけた。痛いほんとに。
彼はというと、事の次第をきょとん顔で見送ってから不意に「ふっ……」と小さく吹き出した。
そのままくつくつと声を押し殺して肩を震わせる。
えっ笑っ……
「すみません驚かせて、はい、使ってください?」
呆然と見ていると、ひとしきり笑い終えた彼がハンカチを差し出して、今度はにこりと目を細めた。
息が詰まった。
優しい笑顔だった。
掬われて、透明になった世界の真ん中で、それはそれは暖かい笑顔を浮かべていた。
まるで、ずっと大事にしている宝物を愛おしむみたいな。
思ってないんだ、微塵も。この優しい人は。
面倒くさいだなんて、ちっとも。
嗚呼、なんだろう。変だ。
さっきまで、あんなに止まって欲しかったのに。
今は、泣きたくなってしょうがない。
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飛鳥(プロフ) - シェルファさん» コメントありがとうございます!お待たせしてしまい申し訳ありません今公開しました!引き続きよろしくお願いします! (2019年6月30日 15時) (レス) id: d93720a371 (このIDを非表示/違反報告)
シェルファ(プロフ) - あー、早く続編が見たいです! (2019年6月30日 11時) (レス) id: ed405ee373 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛鳥 | 作成日時:2019年5月4日 23時