四百四十二通目 ページ43
Aは目を見開いた
吐露される懇願は明らかに他者へ対するもので、死肉が腐り絶叫が渦巻く戦場には不釣り合いに純粋すぎる
害悪に染まっていない彼のその言動は、戦場に慣れていないことをありありと示しており、Aはそれに絶句した
「目を閉じるな！今、いますぐに何か助ける方法を」
段々と瞼を降ろし、朧げに揺れる双眸に光が灯らなくなる。その光景にAは焦ったように声を荒げて、混乱しながら周囲を見渡した
それでもAの頭はやけに明瞭な思考をしている。それに相反した、状況が判別できない焦燥も懐きながら
救急救命を行う助力は居ないか、彼を救う方法は何処にあるのかと懸命に探す
そしてAの目は天啓のように、自身の懐を見下ろした
そこには、小袋に収められた多種の瓶が数本収められている。その中でも、赤い蛍光のような色味を放つ滑った液体は、Aがよく知るところだ
ヴィルヘルミナとして製造を成し遂げた、回復のポーション。人智を超えたこれであれば、或いは
Aは近場に転がっていた彼の足らしきものを引っ手繰るように持つと、巨木に項垂れる男の脚の断裂部へと一心に押し当てた
完全に切断された人体を結合したことは無い
故に彼の傷口がそのまま塞がって片足が失われた状態になるのか、新たな脚部が生え揃うのか、切り離された足が癒着して再生するのか、未知数で実験めいた判断である
官服からはみでた生肉の、ぐぢゅりという水音と指先に付着する鮮血に顔をしかめながら、Aは青年の口元に小瓶を寄せる
「口を……」
口を開けろと指示を出そうとして、止める
到底意思疎通が図れそうに無い彼の様子から見て、その声かけが彼の耳に届くことはないと理解する
一瞬だけ、Aは躊躇った。しかし背に腹は替えられず、小瓶の蓋を捻るとAはその液体を全て口に含む
そして、見知らぬ青年の唇に口づけをした
(記憶する限りでは始めての、異性との接吻だ
Aの口腔内を満たしていた薬特有の苦味が、柔い口当たりと共に彼のもとへと移り、代わりのように鮮血を味わう羽目になる
ゆっくりと液体を口移しにした後、水分を帯びた唇が離れた軽いリップ音と共にAは青年の顔から離れ、血の滲んだ唾を遠くに吐き出した
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アンバ(プロフ) - (みたら士)神様､小説を創ってくれてありがとうございます｡ (2021年5月9日 1時) (
レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
有栖川.(プロフ) - 後輩くん…！個人的にはキャラ揃って大喜びしてます。最近更新多くて通知を見るたびに発叫してます。ですが、無理はなさらないように… (2021年5月9日 1時) (レス) id: 6bc5efe30d (このIDを非表示/違反報告)
シャノ(プロフ) - 最近更新増えて嬉しいです。 彼ですかね、、、！ 更新ありがとうございました！ (2021年5月8日 22時) (レス) id: f15c4b37e0 (このIDを非表示/違反報告)
Contrast(プロフ) - 本当にお話一つ一つが素敵で大好きです！無理のない更新で頑張って下さい！ (2021年5月8日 7時) (レス) id: 8384124a90 (このIDを非表示/違反報告)
アンバ(プロフ) - 本当に大好きすぎる…！読者をどれだけこの作品はびっくりさせてくれるんですか！更新ありがとうございます！！！ (2021年5月8日 4時) (レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
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