四百四十一通目 ページ42
負傷兵を見送って直ぐに、Aは踵を返した。先程六人が荒らしたと思われる草木の合間の泥濘を探り、辿っていたと思われる道を道を遡る
嫌なほど静まり返った森林の木漏れ日が視界を明滅させる中、Aはただ一心に駆けていた
騒乱は聞こえない。つまり、先程の小隊を集っていた幹部とやらが近場で接敵している訳ではないか、敵兵は既に引いたかの二択である
彼女の走力をもってして走り過ぎた、林冠の元の整然とした空間。その異様な眩さに気を取られて目を向け、ふとAは、足を止める
その視界に映る光景に、呆然とした
戦場に不似合いな鳥の囀りと、光芒に照らしだされて顕になった情景。爽風が消炎の焦げ臭さを運び、外套が風をはらんで揺れる
硝煙の塵芥が光を浴びて輝く静謐の、弾痕や刀傷ばかりの高木に囲まれた各所には、ガヴィルの腕章をつけた軍服の骸が散乱していた
死に絶えた奴らは武器を取り零す屍山血河の中で
一際目立つ大木の根本に、Aは人の影を見た
高位軍人を表す彩度の低い詰襟。白亜にも似た銀の蓬髪が血液で萎れている。その容貌は、Aには見覚えの無いものだ
鋭利な長物がその腹部を残酷にも貫き、乱戦のあおりを受けて切断されたと思われる右脚部が直ぐ側に無機質に落ちていた
「なんてこと……」
Aは呆気にとられた嘆息と共に彼に駆け寄り、その双眸を正面から見返す
赤みがかった橙の瞳がAを見返すことは無く、何処か遠い虚空へと焦点を置き去りにしている
数刻みつめるうちで一度も瞬かないその両眼。よもや死んでしまったのかと唇を噛む
しかし彼の僅かに開いた唇に、漏れるようなか細い呼吸を聞いた。ひゅう、ひゅうという空洞音のようなそれは、彼がまだ存命であることを示す
不確かな発声が行われている。Aは一心に彼の口元へと耳を寄せ、その声を聞いた
「いきてくれ、いきて、いきて」
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アンバ(プロフ) - (みたら士)神様､小説を創ってくれてありがとうございます｡ (2021年5月9日 1時) (
レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
有栖川.(プロフ) - 後輩くん…！個人的にはキャラ揃って大喜びしてます。最近更新多くて通知を見るたびに発叫してます。ですが、無理はなさらないように… (2021年5月9日 1時) (レス) id: 6bc5efe30d (このIDを非表示/違反報告)
シャノ(プロフ) - 最近更新増えて嬉しいです。 彼ですかね、、、！ 更新ありがとうございました！ (2021年5月8日 22時) (レス) id: f15c4b37e0 (このIDを非表示/違反報告)
Contrast(プロフ) - 本当にお話一つ一つが素敵で大好きです！無理のない更新で頑張って下さい！ (2021年5月8日 7時) (レス) id: 8384124a90 (このIDを非表示/違反報告)
アンバ(プロフ) - 本当に大好きすぎる…！読者をどれだけこの作品はびっくりさせてくれるんですか！更新ありがとうございます！！！ (2021年5月8日 4時) (レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
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