【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました５

同じこと(いづみ) ページ8

天馬side

咲也が俺を連れてきた場所は、寮の二階にあるバルコニーだった。

吹き抜け構造で風通しもいいからなのか、不思議と暑さや息苦しさは感じない。

言うなれば快適な空間ってやつだ。

｢ここにしよっか｣

言いながら、テーブルセットの椅子を引く咲也。

｢ああ｣

向こうが座ったのを確認して、俺も同じように椅子に腰掛ける。

それから少しの沈黙。

｢……｣

見た感じ、咲也はどう話を切り出すか考えているらしい。

あまりしつこく聞くのもどうかと思い、俺は待つ間自分なりにもう一度考える事にした。

今回、分からなかったからこそこうして咲也に聞いた訳だが、これでも天才役者の俺だ。
全ての答えを教えて貰うだなんて、それこそ俺のプライドが許さない。

(……助言か)

いっそあいつに電話して聞くか？
全員の芝居が良くなる方法を。

(いや、ないな)

浮かんだ考えを、頭を軽く振る事で消し去る。
確かにまともな助言はされるだろうが、電話してまで頼る程の案件じゃない。

俺まで声が聞きたくなったのかとか言われたら冗談じゃないからな。三角じゃあるまいし。

(……)

それに、あいつに言ったんだ。
俺があんたを舞台に立たせてやるって。

｢……くん｣

あいつは本来俺が手を貸す筈の人間。
なのに俺が助言されるんじゃ話にならない。

とんだ笑いもんだ。

｢……まくん｣

ま、今聞かなくても、あいつが戻ったらすぐに勘づかれるだろうけどな。

にしても、あれ程の演技力を持つ男が舞台に立てない訳って一体ーーー。

｢天馬くん！｣

｢うおっ、！｣

名前を呼ばれ、思考が途切れる。

前を見れば咲也の顔が目の前まで来ていて、俺は驚きながら慌てて後ろに仰け反った。

｢あ、ごめん……ずっと呼んでたんだけど、聞こえてないみたいだったから｣

｢あぁ、悪い。考え事しててな……｣

謝ると、咲也は俺の方こそ悪かったからと言って乗り出した身を戻す。

呼ばれてたのか……集中しすぎて気づかなかったな。

｢考え事って夏組のこと？｣

｢いや……｣

少し違う為、首を振って否定する。
って、夏組の相談で来てるのにこの返しはダメだろ。

そう反省したのも束の間。

｢じゃあ、Aさんの事？｣

｢ーー！｣

ズバリと言い当てられ、俺は反射的に顔を上げる。

そんな俺に、咲也は｢やっぱり｣と笑っていて。

｢俺も一緒｣

｢は、｣

｢Aさんの事考えてたんだ｣

ーーーその笑顔は自然であると同時に、何かしらの決意があるようにも感じられた。

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