【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました５

それまでは ページ39

｢は｣

そのまま俺の腰元で両手を結び、次いで自分の方に引き寄せると、今度は俺の首元に顔を埋め始める……っておい。

｢Aの匂い……｣

いや三角お前何してんの！？

｢さんかくの匂い……｣

いやそうじゃなくて！
だがそんな俺の焦りも通じず、顔を埋めたまま動かない三角星人。

(何これ今どういう状況！？)

圧倒的説明不足に頭が追いつけない。

なぜ抱きつかれてるんだ俺は。
俺が男だってこいつ知ってるよね？
ゲームじゃそういう趣味なかったよね！？

｢ちょっ、うわ！｣

後ろに視線を向けつつ声をかけるも、全く退く気配はなくて。
それ所か腕に力を入れ、尚更強く抱きしめられる。

いやだから何考えてんの！？
この世界が乙女ゲーでも俺はれっきとした男だぞ！？こういうのは普通監督さんだろが！

｢……帰ってこないかと思った｣

｢え｣

だが途中ぽつりと呟かれたその言葉に、俺はもがくのも忘れてその場に固まった。
理解が出来ず、数秒ほど頭を悩ませる。

帰ってこないって俺が？なんで？

｢三角？｣

理由を聞こうと最大限顔を向けるも、ふんわりとした髪が頬に当たるだけで俯いたその表情は見えない。

ちゃんと帰るって言ってあったよな俺？電話でもそう言ったし。

｢A、急に行っちゃったから。俺、寂しくて｣

ここまで言われて、俺はようやく三角の行動の意味を理解した。

(……なるほど)

つまりそういう趣味でもなんでもなく、ただ俺に久しぶりに会って安心したと。
思えば電話した時も散々切るの渋られたっけ。

本編的にも絆が深まるのはまだまだ先だし、確かにどこにも行かないって宣言した奴が急に数日いなくなったらそりゃビビるかもしれない。

なんか悪い事したな。

｢三角｣

名前を呼び、右手で三角の頭をくしゃりと撫でる。
にしてもそういう趣味じゃなくてマジで良かった……。

｢ごめん、心配させて。今度からはちゃんと言うから｣

そう言えば、返事こそなかったもののこくりと頷かれた。
忘れてたけど、現状お前にとって一番頼れる相手はまだ俺なんだよな。

……まぁ、それももう少ししたら天馬達に変わるんだけど。
寂しいっちゃ寂しいが、そっちのが三角と俺の為でもあるし仕方ない。

｢……おにぎり作ってくれたら許す｣

｢はは、結局そこかよ｣

カレー食べたんじゃないのかこいつ？
まぁいいや。

｢とびきり美味いの作ってやる｣

｢……！ うん！｣

そう自信満々に返せば、三角はようやく満足したようで腕を解いてくれた。

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