【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました５

過去番外 ファンレター２ ページ33

こんな沢山の手紙が？俺個人に？
なんで。

訳が分からなくて、また嘘としか思えなくて紙袋の中に手を伸ばす。

だが手に取ったそれは、確かに全て俺宛で。

｢……｣

数秒見た後、俺は監督の広げている紙袋の上で、手紙を掴んでいた手を緩めた。

打ち上げの歓声の中、バサバサと手紙の落ちる音が微かに聞こえる。

もしこれが普通の奴なら、素直に喜んだかもしれない。

｢俺はいい｣

だがひねくれた俺には、どうにもそれがいい内容のものとは思えなかった。

(どうせ、)

お前誰だよとか、でしゃばんなとか。
そんなのばっかだろって。

すると、監督は俺のその行動が気に障ったらしい。

｢A｣

やけに落ち着いた声で名前を呼ばれ、体が硬直する。
監督は怒鳴る直前、決まって落ち着いた声になると団員達の間じゃ有名で。

だからいつもの通り、俺は怒鳴られるんだと思った。

(あぁ、やった)

完全に空気ぶち壊しだ。
思いながら、せめて少しでも逃避しようと目を閉じる。

───けど、そんな声は聞こえなくて。

｢っ、ちょ｣

代わりにぐいっと、それこそ潰れるんじゃないかと思うくらい、監督は手紙の入った紙袋を俺に押し付けてきた。

その動作を止めるべく、両手で紙袋の側面を持つと、改めてもう一度名前を呼ばれる。

｢……？｣

そして何事かと思い顔を上げれば、そこにはこれまでで一番、真剣な表情をした監督が。

｢いいから、ちゃんと目を通してこい｣

｢……！｣

逃げるな。
そう言われてる気がして。

｢っ……わ、かった｣

怒られるより、怒鳴られるより何倍も鋭く刺さるその言葉と目に、俺は立ち上がると静かに部屋を後にした。

(くそっ)

打ち上げ中の部屋の扉を閉め、悪態をつきながらも自身の部屋へと戻る。

(俺が何したって言うんだ)

読みたくない、読んでも仕方がないから読まない。
そう言っただけなのに。

批評まみれの手紙読ませて、それでせいぜい落ち込んで来いってか？ふざけんな。

監督に面と向かっては言えない本音。
それを次々口にしながら真っ暗な自分の部屋に入れば、ようやく気が楽になった。

｢……｣

電気を付け、慣れた足取りで渡された紙袋をベッドに乗せてから、自分もその隣に腰掛ける。

すぐに手紙を開かないのは、俺なりに未だ小さく残る監督への反抗心のせいで。
俺が悪いと分かっている分、尚更従うのが悔しかった。

｢…………｣

一息つき、足元の床に視線を落とす。

こう見えて、本当に舞台、楽しんでたんだけどな。

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