【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました５

一つの条件(速水) ページ4

ボロボロの雑誌、散らばった紙切れ、空のペットボトル。
お菓子の空箱に膨らんだゴミ袋。

もう何度処理した事だろう。

｢……っ、くそ｣

減りはするものの無くならないそれらに、よくもまぁここまで溜めたもんだとある種関心さえする。

｢タチ悪すぎだろ……！｣

流石はあの人の作ったゴミ山だ。

＊＊＊＊

『ーーーお願いします』

力を貸してください。

そう頭を下げて頼んだ俺に、姉さんが提示した条件は一つ。

それは一見簡単そうに見えて、実際はかなり厳しいものだった。

『あたしがこの衣装を作り終えるより前。それより早くあのゴミ山をどうにか出来たなら、いいよ。今回と言わず、今後もずっと君に力を貸すと約束しよう』

言いながら、ほとんど完成されかけている衣装を手で示した姉さん。

仕上げに一日修正に一日の、計二日もあれば完成するらしい。

ーーーつまりは今日を入れて、最低でも三日以内にあの部屋を片付けなければならないという訳だ。

『もちろん、早く終わればあたしの作業を好きなだけ見ていいし、ここにある材料も自由に使っていい。仮にもし間に合わなくても、その時は見合った給料を支払うだけだ』

その場合、今言った話は全て無効だけどね。
不敵に笑い、両の足を組む。

その一方で、俺は姉さんの意図が理解出来ずにいた。
向こうにとって何の利点も見い出せない条件に、自然と眉が中心に寄る。

どうせここに来た以上、優先順位は雑用だ。
あのゴミ山を処理するのは当然の事であって、条件の対象にはならない筈なのに。

その上今後も力になるだなんて、それこそ姉さんにとって不利益でしかない。

『……どうしてそんな試すような真似を？』

尋ねれば、姉さんは途端に妖しい笑みを浮かべて。

『ような、じゃなくて試してるからさ』

はっきりとそう言った。
尚更意図が読めず、緩んだ眉に再度力が入る。

姉さんの表情は変わらない。

『君がどれだけ真剣にこの世界を知ろうとしてるのか、あたしに教わった事でどう変わるのか』

言いながらに立ち上がると、姉さんは成瀬の隣に移動した。
その肩に腕を回し、俺を指さす。

『教えるのはいつだって簡単だ。でも、学ぶ覚悟も誠意もない奴に、あたしの衣装にかけた人生は提供出来ない。だから試すんだよ。君がどれだけ本気かどうか』

意思は体力を上回るって事を、あたしに証明して見せて。

裏のラスボスみたく、楽しそうな彼女。

ーーーそのまっすぐな瞳は、俺に可能性を見出しているようにも思えた。

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