【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました５

抑え込む想い(速水) ページ23

｢あくまで俺の自論だけどな！｣

照れ臭そうに、ニカッと笑う成瀬。
その姿は堂々としていて、俺は気づくと笑いを零していた。

｢はは、なんか成瀬らしいな。いいと思うぞ、そういうの｣

｢そうだろそうだろ！？｣

褒めた事で、成瀬は更に自信に繋がったらしく胸を張る。
こんな馬鹿みたいに真っ直ぐなら、彼女に想いを伝える日もそう遠くはないだろう。

……最も、俺はお前とは違うが。

｢けど、残念だったな｣

ゴミに手を伸ばしながら、俺は成瀬に伝えるべく口を開く。

｢お前の読みは外れだ。俺は監督さんに恋愛感情は抱いてない｣

というより、そういうの抱いちゃいけないからさ俺。

それは自分でも驚く程、諦めた弱々しい声だった。

｢速水……｣

成瀬は何かを察したようで、こちらを向くと俺の名を小さく呟く。
急に様子が変わって不思議に思ったのかもしれない。

心配かけないよう、務めて明るく取り繕う。

｢でもまぁお前の言う通り、監督さんの事は尊敬してるし話してて楽しいよ。他の団員の皆も｣

そう言うと、数秒の間の後、成瀬から盛大なため息を吐かれた。
分かってたけど、こいつ結構空気読めるんだよな。

｢ま、そういう事にしといてやるよ｣

｢……ありがとう｣

見逃してくれた彼に、俺も小さく礼を言う。
ここの弟子が成瀬で本当に良かったよ俺。

｢お礼に恋愛相談ならいつでも乗るからさ｣

｢ばっ、お前……！｣

言ったらあからさまな反応された。

いいじゃん夫婦でクリエイター。
あの人変わってるけど優しそうだし、俺はお似合いだと思う。友人として鼻が高いしな。

ただ間違いなくお前が尻に敷かれるんだろうけど。

｢うっせ、作業しろ作業！｣

｢はいよ｣

聞いてきたのはどっちだよと思いつつ、俺たちはそれぞれ向き直ると作業へ戻る。

その中で、俺は自分の言った言葉を反芻していた。

(……そう、いけないんだ)

改めて自分に言い聞かせる。

俺はこの世界の人間じゃない。もし仮に戻れたとしても……生きてるのかさえ分からない。

明日突然存在が消える事も、なんならずっと目が覚めない事だってあるかもしれないんだ。

そんな奴が恋愛だのなんだのなんて、言ってられる訳がない。
カンパニーの皆とだって一緒にいれば居るほど、絆が深まれば深まるほど、俺の隠してる事実でがっかりさせる事になるんだから。

(だから俺は───)

皆との距離を、保っていかなくちゃ。

そんな想いとは裏腹に、部屋は段々と本来の明るさを取り戻していく。

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