【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました５

同世代の恋愛事情(速水) ページ22

｢はい、はい。それじゃ、おやすみなさい｣

電話を切って、携帯をズボンの後ろポケットに仕舞う。

｢さて、｣

次に外していたマスクと片方の軍手をはめ直し、一息入れてからまたゴミ掃除を再開。
電話中に仕分けした物を、無造作に袋へ入れていく。

姉さんに言われた約束の期限まで残り数時間。

休憩したい所だが、生憎今の俺にそんな時間は残されていない。
監督さんに応援されてしまっては尚更だ。

(にしても……)

片付けながら、監督さんの言葉を思い出す。

俺の声が聞けて良かったって……まさか他の奴らにも毎回そういう事言ってんじゃないだろうな。

そりゃそんな事してたら嫌でも無差別ルート入るって。
真澄と左京さんの苦労が目に浮かぶ。

｢おい速水。今の電話誰だ？｣

｢うちの劇団の監督さん。近い内に合宿するんだと｣

電話内容を伝えると、余程合宿が羨ましいのか｢いいな合宿！｣なんて言って俺の方を向く成瀬。

俺としては目の前のゴミでいっぱいいっぱいだけどな。

｢そういやお前のとこの監督って女なんだろ？可愛いのか？｣

｢なんだよいきなり｣

｢いいだろ別に。息抜きだ息抜き｣

それが息抜きってお前……。
だが手伝って貰ってる手前、そして何より興味津々な成瀬に負けて、俺は渋々答える事に。

｢まぁ……可愛いと言うよりは綺麗系かな｣

乙ゲーの主人公なだけあってやっぱ美人だし。
驚くほど正解の選択肢(さっきのとか)みたいな照れる事言ってくるし。

まぁそのおかげで救われてる奴らはかなりいるんだけどな。

｢団員の為に一生懸命になれるいい人ってとこ｣

そういうのができるのは監督として、というか人として凄いと思う。
だからこそ、監督さんの周りは団員達の笑顔で溢れる訳だし。

｢なるほどなー｣

俺の話を聞いて、何を思ったのかそれだけ呟く成瀬。興味がないなら聞くなよ。

ーーーと、そう思ったのも束の間。

｢お前その人の事好きなんだな｣

｢……は？｣

あまりにぶっ飛んだその解釈に、俺は気づけば作業する手を止め、背後にいる成瀬の方へ身体ごと全体を向けた。

それに対し、成瀬は俺の方を向く訳でもなく自分の足元のゴミを片付けていく。

｢だってそうだろ？さっきの電話もお前なんか楽しそうだったし｣

言いながら、今度こそ俺の方へ向き直った成瀬。
その顔は、これまでで一番の笑顔で。

｢気付いたら笑えてるとか、応援したくなるとか、そういうもんじゃね？好きってさ｣

その姿が、なんかかっこよく見えた。

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