【A3!】舞台から落ちたら演劇の世界にいました５

春から夏へ(いづみ) ページ11

天馬side

｢……それで？なんだよ改まって｣

咲也も相談事があると聞いて、俺はもう一度椅子に座り直す。

さっきの顔を見た限り、余程重要な話みたいだからな。
こっちの相談に乗ってもらった分、尚更立ち聞きなんて失礼な真似は出来ないだろ。

｢えっと……｣

だが何を躊躇っているのか、一向に話を進めようとしない咲也。

思えば背を向けた俺を呼んだ時も、声をかけるか悩んでいた気がする。

｢……話さないなら戻るぞ｣

俺も暇じゃないんだ。

多少イラつきを含んだ声で、あえて俺から誘導してやると、咲也は渋りながらも口を開いた。

｢天馬くんて、Aさんの事で何か知ってる事ってある？｣

｢はぁ？｣

想像していなかった内容に、我ながら気の抜けた声が出る。

……って、相談事ってあいつの事かよ！
あんまり真剣な感じ出すから、てっきりもっと深刻なやつかと思っただろ。

｢……｣

ため息をつき、続きを促す。
どんな内容にしろ、相談は相談だ。

｢例えば、Aさんの演技とか｣

｢あるぞ、見た事｣

｢本当に！？｣

答えた途端、がばりと上体を俺の方へ寄せる咲也。って、

｢近すぎだ！｣

｢あ、ごめん｣

注意をすると、また謝りながら元の位置に戻っていく。忙しいやつだな……。

その後も咲也の質問は続いたが、何故かその殆どがあいつの演技に関係する内容で。

｢その辺はよく覚えてない｣

｢そっか……｣

聞かれる度に、俺は約束を守るべく適当に誤魔化し続ける。

だがこの質問からして、咲也はあいつについて何かしら勘づいてるんだろう。

そして続ける事数分。
これ以上は無駄だと判断したのか、咲也は諦めたように肩を落とした。

それから数秒程黙り込むと、今度は自分の事を話し始める。

｢何回か見た事があるんだ、Aさんの演技。力強くて、存在感があって｣

｢……完全にプロの域だった｣

小さい声ながらに同意すると、咲也も嬉しそうに微笑む。

｢だよね。……それで俺思ったんだ。どうしてあれだけの演技ができて、舞台に立たないんだろうって｣

｢お前……｣

その言葉で、俺はようやく理解した。

間違いなく、目の前のこいつは俺と同じ考えで、この件についてそれぞれ思う所があるという事に。

｢さっき皆で舞台の上で寝たって話したよね。俺、その時見ちゃったんだ｣

｢見たって……｣

その表情はやけに曇っていて。

｢Aさんが、一人で泣いたまま寝てる所｣

｢……！｣

想像していた何倍も、深刻な事に気付かされた。

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