うらたぬき「裏切り」 ページ8
それは、組織に属する私が、敵対組織・浦島坂田船との攻防中に起こった。
スパイとして、しばらく浦島坂田船に潜入していた私は、数ヶ月前に戻ってきた。自分の組織に戻ってきて初めての戦闘。そんな中、背後から私の頭へカチャリと突きつけられた銃に、戦場は時間を止める。私はそれをぼんやりと見つめていた。
『もう用済みですか?』
「うん。情報は充分だからね。1度敵に関わったやつを生かしておくのは危険でしょ?」
『そうですね…いつでもどうぞ。1度失った命、あなたに預けると決めてましたから』
「物分りが良くて助かるよ。さすがに俺も味方を殺すのは辛いからね」
引き金にかかった指が、ゆっくりと動いた。
バンッ
死ぬ、そう思った時には、私は誰かの腕に抱かれていた。
『さ、かた…?』
見覚えのある赤色の髪に、息を止めた。
どうして、助けたのだろうか。1歩間違えれば、坂田が死ぬのに。
「坂田大丈夫か!?」
「へーき。カスってへん。今の、当てる気あったん?」
志麻の言葉になんでもないかのように返す。私の身体を抱きしめたまま、先輩を睨みつけた。先輩は目を細めるだけで、何も口にしない。代わりと言わんばかりにセンラの荒らげた声が聞こえた。
「お前何しとんねん!そいつは敵やぞ!?」
その場にいた全員の心の声を代弁するかのような、坂田への叫び。本気で怒っているように見えた。センラの言う通り、私は、坂田に助けられるような人間じゃない。
「Aは、短い間やけどたしかに俺らの仲間やった!そんな仲間を見殺しにできるわけないやろ!?」
「だからって、」
「…裏切られたのにそんなこと言えるなんてね。すごいね、A」
『…』
「仲間に銃向けるなんて、頭おかしいやろ。こんなヤツらの何がいいねん。恩あるからって、なんで従ってんねん!」
「そんなに欲しいならあげるよ、って言いたいとこだけど…さすがに情報持ったこの子をやすやすと逃がす訳にはいかないんだよね」
バンッ
突如押し倒され、先程身体があった場所を銃弾が通り抜けていく。
『さか』
「ボケっとすんな!」
手を引かれ、走り出す。何発も飛んでくる銃弾を、彼はその瞬発力と勘だけで避けていく。
「志麻くん!」
「チッ。撤退するぞ!センラは道ひらけ!」
「了解!」
腕を引かれるまま、彼らに援護されるまま、その場を走り去った。
.
「元気でやれよ、A」
呟かれた言葉は、銃声や足音などの騒音に紛れ散っていった。
158人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ