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「いらっしゃい、志麻くん」
"笑顔"のセンラさんが出迎えてくれる。
どうして笑顔なのか。どうして般若じゃないのか。逆に恐怖を感じた。
「せ、センラさん、あの」
「ん?」
「…お邪魔します」
あまりにも素敵な笑顔を浮かべるセンラさんが怖すぎて何も言えなかった。案内されるがまま、リビングに…かと思えば、玄関入ってすぐの部屋の扉を指さされた。
「ん」
「…ん!?」
「なに文句あんの」
「文句も何も、ここAの」
「いいからはよ入れや」
ガッ、と首根っこをつかまれて部屋の中に放り込まれた。
彼元ヤンかなにかでした!?
勢いで床へとダイブすると、久しく聞いていない声が聞こえた。
『えっ、なに…っ!?しまに…しまくん…?』
起き上がると、目の前には驚いた顔をしたAがいた。目が合って反射で逸らし、揃って扉の方を向けば、センラさんと目が合って顎で指された。
『お、おにいちゃ』
「A」
『…』
助けを求めるような声に、センラさんの静かな声が響く。その意図を受け取ったのか、開いた口を噤んだ。その後静かに扉が締まる。Aと話せということだろう。
お互いに何を言えばいいか分からず戸惑う。目を合わせてはそらし、口を開いては閉じる。沈黙が続いた。
あぁ、そうか。センラさんは、俺のこともAと同じくらい大切にしてくれているのか。有耶無耶のまま、気持ちは時間に解決させて、友達のまま過ごすという道を、許してはくれないらしい。きちんと話して、終わらせるか進めるか決めろと言っているのだ。
俺も覚悟を決めないと。このままでは、ここまでしてくれたセンラさんにも、俺のせいで苦しんだであろう君にも、不誠実だ。
ゆっくりと息を吸って、吐いた。
「…A…この間は、ごめん」
『なにが』
冷たい言葉に手が震える。拒絶されるだろうか。こんな最低な俺は、嫌われてしまっただろうか。それでも、俺は君に報いなければならない。この気持ちを抑え込んだ結果、君を苦しめたのなら、それを曝け出さなければ。
「何も言わなくて、ごめん。伝えようとすらしなくて、ごめん。泣かせて、苦しめて、ごめん」
…違う。そんな義務感じゃない。責任感じゃない。
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