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Aside
目が覚めると、ベットに頭を乗せてセンラが寝ていた。晴月はずっとセンラの手を握っていたようだった。
『あ…』
(悪いことしちゃったな…でも、寝顔かわいい)
思わずセンラの頭を撫でた。
「ん…あ、起きた?」
眠そうな声が聞こえて、慌ててセンラの頭から手を離す。
『うん…ごめんね、手ずっと握ってたから…』
「え?ああ。ええよ、別に。することなかったし、Aの寝顔見てたし」
『…ゴホッ』
Aはセンラの言葉を無視して起き上がる。そして窓の外を見ると、空はもうすっかり赤くなっていた。寮はたしか門限があると言っていた気がする。
『…あ。もう夕方…そろそろ帰る?』
「んー、そうやな。帰らななぁ…」
『そっか…』
「何?もっといてほしいって言った?」
『言ってない』
「そう…俺も帰りたないけどなぁ。もうちょっとしたら帰るわ」
完全に人の話を聞いていないセンラを再び無視して名前を呼んだ。
『…折原くん』
「ん?」
『そこの、机の上の袋取って」
机の上の紙袋を指さすと、センラは言われるがままに手に取ってくれる。
「これ?」
『うん…ゴホッ。それ』
それを受け取ると、中身をセンラに突き出した。
「?」
『誕生日…おめでとう』
そう言うとセンラは少し驚いたような顔をして、たどたどしくそれを受け取った。
「あ…ほんまや。今日誕生日やん」
『今日にした理由、気づいてなかったの?なんか…意外』
「最近バタバタしてたやん?すっかり忘れてたわ」
『…ほんとは…ちゃんと祝いたかったし、楽しませたかったんだけど…こんな形でごめんね』
今日やりたいことがいっぱいあって、少し前から考えていたことがあったのに。風邪なんて本当にひくもんじゃない。
「ありがとうな。気持ちだけで充分や」
『でも…』
「…ほんなら、名前で呼んでや」
『えっ…ゴホッ』
言われると思っていなかった言葉に、驚いて目が泳いでしまう。なんて返すべきだろうか。
「あかんの?」
『い、いいけど…』
首を傾げて、少し甘えたように言われてしまえば誕生日の手前ダメとも言えず、考えるより先に言葉が出ていた。
「なら、言うて?」
『っ…せ、せ…せん、ら…くん…』
顔が熱い気がする。きっと、風邪のせいだけじゃない。恥ずかしくて、熱くて、ぎゅーっと眼を固くつぶった。
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