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瞳を揺らすAに、ニコリと笑みを浮かべる。
『…バカ…っ』
ぽたり、と水が零れる。床が、少しずつ濡れていく。
「うん」
『ひどい』
「うん」
『さい、てい…!』
「…うん」
『…なんで聞いてもくれへんの』
「…」
『自分の中で勝手に決めつけんとってよ…っ!』
「…ごめん」
『志麻くん!』
「…ごめんな、A」
『……も、きら、い』
嫌われても仕方がない。それでもいい。この思いを抱いた時から覚悟していた。
きっと、
『っ…なんか言ってや、あほ…!!』
バタンッ
きっと、時間が解決してくれる。時間が経てば、夢だったと、ただの思い出だとそう、思えるから。
出ていったAを引き止めることも追いかけることもせず、ただ見送った。
(センラさんに、怒られるかな)
ポチポチとスマホを触る。
志麻ごめん
そう送った相手は、彼女の兄。謝る相手は俺じゃないやろ、なんて怒られそうだ。けれど、謝る以外にどうすればいいか思いつかなくて。
彼だってただ祈っていた。彼女が笑ってくれることを。彼女が幸せでいることを。泣かせないと約束したのに、泣かせてしまった。俺はなんて不誠実で、なんて最低な人間なのだろう。
すぐ既読がついてしばらく、返事はなかった。
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センラside
志麻くんからのLIMEに首を傾げた。何を謝られているんだろう、と。けれどどうしてか、すぐに察しがついた。たった一言だけなのに、それ以外何も書いていないのに、Aのことだと分かってしまった。それに敢えて返事をしないまま、Aが帰ってくるのを待った。
しばらくして、酷く落ち込んだ様子で帰ってきた。
「おかえり、A」
『…』
「どうしたん?」
『…』
「A。吐き出してみ、な?」
『…しま、くん』
ポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。それに呼応するように、ポタリと雫が落ちていく。志麻くんのことを志麻兄と呼ばないなんて、予想は当たっているようだ。彼の気持ちにはとうの昔に気づいていた。いつか、こうなる日がくることも、分かっていた。
『…私、ずっと…しまくんのこと、くるしめ、てた』
「…」
『きずつけた。酷いこと、言っちゃった…』
「うん…」
『わた、し…どう、したら』
「志麻くんは、なんて?」
フルフル、と首を横に振る。きっと何も言わなかったんだろう。
「…それが志麻くんの選択やったんやね」
『…?』
「A。背負わんでええよ。志麻くんが口に出さんかった気持ちまで、背負うことない」
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