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あれから頭からずっと離れなかった。幸せってなんなのだろう。センラの言う幸せを感じるべきなのだろうか、子どもを産むことが普通の幸せなのか、なんて。
各々が好きなように過ごし、静寂が響く部屋でぽつりと話し始める。
『…志麻』
「何?」
『…』
言葉を出そうとして引っ込めて、何度か繰り返して漸く言葉を紡いだ。その間志麻はまっすぐとこちらを見つめて待っていてくれた。
『あのさ…本気で、考えて、みない…?』
「え…?」
『…子ども』
「こども…」
『ほ、ほらお義母さんも喜ぶし、子育てに没頭するのもいいかなって…それに、一緒にいるんだし世間体にもありなのかなって思ったり…?仕事だけじゃ味気ないし、さ』
「…」
『自分の子どもめちゃくちゃかわいいらしいし、その幸せ噛み締めるのもありなのかな〜みたいなね、ちょっと思ったっていうか』
早口で捲し立てる。志麻にさえ取り繕って思ってもないことを言っている自分に途中で気づいて、嫌気がさした。
「A…」
『っ…ごめん。やっぱ、だめ、だよね…』
「…お前が、ほんまに欲しいと思うんやったら俺は構わへんよ」
『え…』
「やけど、劣等感や嫉妬、罪悪感から欲しいと考えてるなら、子どもは作らへん」
『志麻?』
「今日センラになんか言われたん?Aは前に愛し合ってない2人から生まれる子どもは可哀想やって言うとったやん。子どもは好きやけど必要ないとも言っとった」
たしかにそんなことを言ったこともあったろうか。結婚するにあたって、いろいろと志麻と私とで決めていたことがあった。そのうちの1つが、子供について。
2人の子どもを欲しいと思うまでは作らない。
「Aはそれでええの?これで1つの命を授かって、その罪悪感に耐えきれんの?」
『…それ、は、』
「俺はAを否定せえへんよ。やから、落ち着いて、一緒に考えよう?これからどうしたいか、ゆっくりな」
いつだって、どんな自分だって、受け入れてくれる志麻にポタリと涙がこぼれ落ちる。志麻となら、本当に幸せになれるんじゃないかって思わされる。その、安心感が心地よかった。
「欲しいなら作ろう。まだ怖いなら、やめとこう。俺たちは俺たちなりに小さな幸せ掴むって決めたやん。センラに振り回されんでええよ」
『…優し、すぎだよ、志麻…』
「お互い様やろ?俺もAもまだまだ振り回されっぱなしやけどさ、ゆっくり歩んでこうよ」
『うん…焦って、ごめんね』
「いーよ。さ、今日はもう寝よ?」
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