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「…そう、やね。Aの言う通り、仕事も僕の世話も、他のヤツでもできるよ。でも僕は、Aがいいの。僕の傍にいるのはAがいい」
目を逸らした私の頬を両手で包む。曇りのない真っ直ぐな瞳で見つめられた。
『なんで』
「好きやから」
『どうして』
坂田の言葉に胸がぎゅう、と締め付けられる。
知ってるよ。志麻が言ってたから。でも、理由が分からないの。
「Aの、コロコロ変わる表情も、頑固なところも、真面目な性格も、僕をよく見て褒めてくれるところも全部好き。初めて会った時からずっと好き」
そんなとこが好きなのか。そう驚いて言葉が出なかった。表情は分かりやすいくらいコロコロ変わって、頑固で気ままで、でも真面目なところもあって、私のことをよく見てくれている。それは坂田の方なのに。
『…初めて、って、そんなめちゃくちゃ昔の』
坂田と初めて会ったのは、一体何百年前のことだろう。もう思い出せないほど前の話だ。
「そうやよ。一目惚れやってん。それからずっと、何百年も前からずーっとAだけが好き。掃除も仕事もほんまはしなくてもいいって思ってる。でもそれじゃ、この屋敷には置けらんから。それだけ」
『なに、それ…』
あまりにも想像外のことで困惑していた。つい坂田から目を逸らして俯く。それにそっと坂田が離れていった。
「Aと主従関係結んだのも、それが必要やったから。それ以外でAが傍にいてくれる方法も思いつかへんかったし…」
『それでも、命令すればよかったじゃん。坂田に全部捧げるって言ったんだから…好きにすればよかったのに』
「…命令なんかで繋いだ関係なんかいらんよ。そんなん虚しいやん。ましてや恋人やで?命令で繋いでどうすんの。何になんの。僕はAと対等な関係で、恋人になりたかったんやもん」
『…だから坂田のものだって言うのに、こき使わないの?』
「そう」
寸分の迷いもなく言い切る坂田。その、まっすぐすぎる言葉が少し怖い。永い時を生きるが故に吸血鬼は、坂田のような純粋な感情は失いやすい。それにも関わらずそれを持ち続ける坂田は、なんだと思ってしまったのだ。
『へん、だよ』
「え?」
『…うらたさんなら命令してでも欲しいものは手に入れるでしょ』
誰かを殺すことも、何かを奪うことも、うらたさんは一切の躊躇いがない。人間味がないと言えばそうだ。目的のために手段を選ばないその姿は、人間とかけ離れたいくつかの吸血鬼の上に立つだけのことはある。
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