マイナス100cmの恋【青】 (ページ6)

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ジョッキを離し、机に置いた。と同時に、後ろからガッと肩を掴まれた。

「え」

「…………あ、やっぱりAやん｣

突然のことに驚いて振り返ると、やけに白くてきめ細やかな手が目に入った。それから、もう何十年も見慣れた顔も。

「…………侯隆」

思わず眉間に皺が寄るのを、自分でも感じていた。
肩に触れていた手の主は、わたしがいちばん会いたくて、それから、いちばん会いたくなかったひとだった。

「何してるん？こんなとこで」

「何って、居酒屋来て飲む以外に何をすることあんのよ」

ごく自然にわたしの隣の椅子に座り、断りなく枝豆に手を伸ばす侯隆。
そんな侯隆には軽く一瞥を送るくらいで、特に咎めはしない。いつものことだ。し、わたしもする。

「ま、そらそやな。仕事帰り？」

「そ」

バッバッバッと心臓が速くなるのを感じる。もう何十年もいっしょにいるのに、なんでこんなにも慣れないものかな。…………まあ、理由はひとつしかないのだけれど。
変装のつもりか、黒いキャップを深く被り、黒ぶちの眼鏡をかけている。顎にはずらしたマスクも。ただし、これは白色だ。

「侯も、仕事帰り？」

侯隆、というのは彼の本名だ。

「おん、そそ。久しぶりにみんな揃って時間あるし、飲みに行くかあって」

「…………みんな？」

「おん、みんな。メン」

「ヨコちょ何してるん〜！？」

突然、がばっと侯隆の背中に誰かが抱きつき、侯隆が低く唸る。「うわ、おま、ヤス！いきなりなんやねん」

「ごめんやん〜。ヨコちょトイレから全然帰ってこおへんから！席忘れたんかとおもてん！」

「いくら俺でもそこまで忘れへんわ！」

侯隆から離れた男性は、にこっと明るく笑った。
その顔は、もちろん、知っている。関ジャニ∞の、安田章大さんだ。

「で、ヨコちょ、このひとだれ？まさかナンパしてんの！？そんな不審者みたいなかっこして！？」

「不審者は余計やろ！ちゃうわ、知り合いや」

安田さんは、へえ〜と言ったあと、改めてわたしの方へ向かって、にっこりと笑って「どうも！」と言ってきた。
なんて明るくてあたたかくて癒される笑顔…………。

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