マイナス100cmの恋【青】 (ページ28)

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「あれ、桜木さん、彼氏できました？」

出社するなり、朝の挨拶もなしに伊原くんがそう言ってきた。

「おはよう伊原くん。えー、できてないよ。なんで？」

「桜木さん、最近目死んでたのに、今日はめちゃくちゃすっきりした顔してますよ。目めっちゃキラキラですし！それ恋でしょ〜？」

朝ごはんらしいおにぎりを頬張りながら伊原くんがにやりと笑う。

ちなみにデスクには既におにぎりの空き袋が既にふたつ転がっている。

「ええ、そんなんじゃないって…………ほらもー仕事始まるよ」

すっきりしたように見えたなら、それは恋なんかではなく、久しぶりに気が済むまで泣いたからだろう。

あの後、結局、ずっと止まることなく泣いてしまったわたしを、安田さんはずっと抱きしめてくれていた。

わたしが泣いている間、慰める言葉をかけるのでなくて、ただ黙って抱きしめてくれていたのが余計に安心して、気が抜けて、日が変わるまで子どもみたいに泣いてしまったのだ。

そのままいつの間にか泣き疲れて寝てしまったらしく、目が覚めたときにはベッドで布団をかけられて横になっていた。

安田さんはいなかったけれど、代わりにテーブルの上に、『今日はありがとう、またごはん食べさせてくれると嬉しいな』という文字と、かわいらしいねこちゃんのイラストが描かれた置き手紙がおいてあった。

起きて、猛烈に後悔した。

まさか、まさか、いい歳をして、まだ2回しか会ったことのない人の前で、あんな、子どもみたいに泣いてしまうなんて……………。

とてつもなく恥ずかしいし、自己嫌悪の波に溺れそうだ。

けれど、安田さんのあの独特のふんわりとした雰囲気と、それでいて力強い腕にとても安心してしまったのは事実で。

またお礼しないといけないな、と思う一方で、顔を合わせるのが恥ずかしい、とも思った。

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