マイナス100cmの恋【青】 (ページ27)

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「…………う、うう〜…………」

ここ数日堪えていたものが、一気に溢れだしてしまった。

ストレスが溜まっていたのもあるけれど、あんな風に優しい言葉をかけてもらって、頭を撫でてもらったことがあまりにも久しぶりすぎて…………。

安田さんのあの優しさが、わたしの涙を溢れさせた。

「う、う、うう〜…………」

声を出さないようにしても、どうしても声が溢れおちてしまう。

そのまま、玄関にぱたりと座りこんだ。

涙は止まることなく、決壊したダムのように溢れて、鼻はつううんと痛いし、呼吸もしづらい。

自分の髪をぐしゃりと握りつぶした瞬間、「さくらぎさんっ」という声と、勢いよく扉が開く音がした。

「っ、や……すださ……」

声の主を見上げる。眉間に皺を寄せた安田さんが立っていた。

「な、なんで…………」

「…………泣き声、聞こえたから…………言ったやん、おれ、桜木さんのことほんまに心配やねん」

「やす」

安田さんの手が伸びてきたかと思うと、そのまま、ぎゅうときつく抱きしめられた。

「なんでおれがいなくなってから泣くん……ひとりで」

それは、わたしが、人の前で素直に泣けない可愛くない女だからだ……。

「おれじゃ頼りないかなあ」

ぎゅううとわたしを抱きしめる力は緩まることがなくて、少し苦しいくらいだった。けれど、今はその苦しささえも心地いい。

靴を脱いだ安田さんに抱えられ、リビングのソファに腰掛ける。と、再び安田さんに抱きしめられた。

安田さんの両足に、身体を挟み込まれる。

「おれ、あかんねん…………桜木さんの、泣きそうな顔も、泣いてる顔も見てるんつらい」

ずっずっと、わたしの、色気のない鼻をすする音が響く。

安田さんは顔を上げ、わたしと目を合わせる。

「なにがあったん…………？」

う、と口をついて出た嗚咽を皮切りに、気づけばぽつぽつと上司から受けた罵倒やセクハラについて話していた。

泣きじゃくっていてとても聞きやすいとは言えないわたしの話を、安田さんは真剣に聞いてくれた。

「しんどかったなあ…………桜木さん、よう耐えたな、偉いで。お疲れさま」

しきりに頭を撫でてくれる安田さんの手があまりにも優しくて、あたたかくて、もう出ないと思っていた涙がもう一度溢れ出した。