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満月でも、三日月でもない月が綺麗な夜だった。
先程の飲み会よりも、安田さんは口数が少なく、言ってしまえば沈黙が流れていた。
安田さん、本当にどうしたんだろう。わたしになにか用事があったんじゃないのかな。
相変わらず手は繋がれたままで、なんだか高校時代に付き合っていた彼との学校からの帰り道を思い出す。
彼、とはもちろん侯隆のことではない。
……結局、彼との関係にも、侯隆が大きく関わってしまったのだけれど。
ぶん、と軽く頭を振る。いけない、侯隆のことはあまり考えないようにしようと決めたのに。
「…………ね、桜木さん」
ふと安田さんに声をかけられて、びくりと肩が跳ねてしまった。「は、はい?」
「桜木さんは、ほんまに、その」
わたしより1歩ほど前を歩いている安田さんの表情は見えないけれど、なんだか口をもごもごさせて えーと、だのあーだのと繰り返している。
「………………ヨコちょとは付き合ってへんの?」
「え」
ばくんと大きく心臓が跳ねた。気がした。
一瞬だけ歩く足を止めてしまったけれど、慌ててもう一度歩き出す。
「あー…………付き合ってないですよ」
今度は安田さんが立ち止まり、振り向いてから、じいとわたしの顔を見つめる。
……うわ、目大きい。綺麗な顔……。
安田さんは数秒間、食い入るようにわたしの顔を見つめて、それから、一瞬だけ何かを考え込むような硬い顔をしてから、「そーなんや」と再び歩き始めた。
……なんなんだ?
一連の行動の意図が掴めないけれど、テレビで見るとおり、恐らく独特で個性的な考えの中に彼はいるのだろう。恐らくわたしには理解はできないはずだった。
それから、道中はやはり無言だった。
特に話すこともないまま、安田さんの「このへん?」という声に、「あそこです」と白いマンションを指す。
「なんか強引に連れてきてもうてごめんなあ…………手痛くなかった?」
「いえ、全然。わざわざ送ってくれてありがとうございました。…………帰り、大丈夫ですか? この近くですか?」
「おん、歩いて10分くらいかな」
そんな近くに住んでたとは…………まったく知らなかった。
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なのはなさいた(プロフ) - 更新ありがとうございます!続きが楽しみです!応援してます! (2019年3月27日 3時) (レス) id: 9a9c48371e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:uu | 作成日時:2019年3月7日 0時