マイナス100cmの恋【青】 (ページ16)

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「え、いや、そんな……悪いですよ。大丈夫です、ひとりで帰れます」

「いやいやこんな夜にこんな人気のないとこ女の子ひとりで帰らされへんて」

「迷わんと帰れますよ？ここ近道なんです」

「迷うとかじゃなくて危ないやん、どうすんの不審者とかに遭ったら」

「えー、そんなんないと思いますけどね。今まで遭ったことないし」

「もー……今日日小学生中学生でも桜木さんより危機管理能力しっかりしてる思うわあ」

はあ〜と薄くため息をつく安田さんの言葉の意味が分からず黙っていると、バッグを持っていない方の手をとられた。

「え？安田さん」

「もー埓あかんから連れてくわあ。…………大人しく送られてなあ」

街灯に照らされ、にかっと笑う安田さんの顔が見える。と言っても、眼鏡にマスク姿なのだけれど。

「桜木さん、渋やんとの会計のときも思ったけど、なかなか頑固やなあ」ふふふと可愛らしく笑う安田さん。

「……よく頭硬いなって言われるんです……すみません、可愛げなくて……」昔からなおそうなおそうと思っているのに、この融通の効かなさはなおらないのだ。

「いやいや、そんなことないよ。芯が強くて素敵やよ」にっこりと笑う安田さん。どう考えても素敵なのはあなたです。

家どのへん？という安田さんに、戸惑いつつも大体の場所を告げると、把握したらしくあああそこね、と言って歩き出した。

状況がいまいち理解出来ず、お酒も入っていたこともあって、心臓が急速に速度を速めていった。

今ここにわたしは、侯隆の友人としていなきゃいけやいのに……なのにどうしても、安田さんのファンとしてのわたしが顔を出す。

大好きな安田章大さんに手を握られて平常でいられるはずがないのだけれど、それを表情に出さないように努めた。

ただし、恐らく手汗は尋常ではないだろう。

ああ最悪だ…………憧れの安田章大さんに、まさか、こんな、手汗まみれの手を握られるなんて…………！

一生の不覚だ。昨日までの、ライブDVDやテレビを観たり、雑誌を読んできゃあきゃあ言っていた自分に土下座をして謝りたい。

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