マイナス100cmの恋【青】 (ページ14)

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「じゃっ今日はおつかえしたぁ〜」

居酒屋から出ると、ひんやりした風が涼しく心地よかった。

「あ、渋谷さん、お会計……すみませんでした」

レジにて会計をしようと財布を取り出すと、渋谷さんに制されてしまった。

財布しまい、いや悪いです、ええから、いや出します、ええて、いやでも、

延々とそのやりとりを繰り返し、最終的には強引に押し切られてしまった。

「こんなに素直に奢られへん女なかなかおらんで」

「侯……可愛げのない女で悪かったね」

渋谷さんには、もし今度機会があったらなにかお礼をしよう。
と言っても、ただの一般人のOLであるわたしに、こんな機会二度とないだろうけど……。

「桜木さん今日はありがとうなあ。こーんな可愛い女の子がおってくれて楽しかったわあ」

丸山さんが人好きのするわんこみたいな笑顔で、わたしの手を握りぶんぶんと上下に振る。
お……、女の子、なんて言われる歳じゃないんだけどな、もう。

「いえ、わたしも楽しかったです。ひとりで飲むのも味気ないと思ってたので。ありがとうございました」

丸山さんと話してると、自然とこっちまで笑顔になってしまう。丸山さんと話して嫌いになる奴はいない、とはこういうことか、と実感する。

「お前どうやって帰るん？こっからやったら歩いて30分くらいかかるやろ。送ってく？」

「あー……あっちでタクシーつかまえる」

侯とわたしの家はここから真逆だ。

「じゃあ、みなさん今日はありがとうございました。楽しかったです」

ぺこりと頭を下げる。

「こっちこそおおきに、また飲もや！」

「はい、また…………侯のことこれからもよろしくお願いします」

こちらこそ〜というみんなの声にふっと口を緩め、侯隆に軽く手を上げて踵を返す。

気つけてな〜という侯隆の声や、ばいばーい！という丸山さんたちの声を背に受けつつ、少しだけふらついた足取りで帰路につく。

少し酔いが回っているけれど、意識ははっきりしてるしもちろんきちんと歩ける。

タクシー乗り場を素通りし、大通りを抜け、少し薄暗い路地に差し掛かったところで、わたしの後ろから、足音が聞こえてくるのが分かった。

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