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それがサクッと割れたら、マンゴーがたっぷり入ったカスタードクリームにたどり着く。




舌にのったケーキは、ババロアがとろんととろけて、そこにタルト生地の歯応えとマンゴーの食感が加わる。





「これはバカンスって感じです。
夏の旅行で南の島に行ったみたいな。
ワクワクします」




「良かった。
夢の味だった?」




「いえ・・・。
近いんですけど、違いました」





玄師はにっこり笑って、真衣に椅子を勧めた。




真衣は次に黄色のケーキを選ぶ。




レモン色のアイシングで表面を覆われたケーキにフォークで切れ目を作ると、断面は折り重なった3層。




固めのカスタードクリームの下に、薄いビスケット生地。




その下にレモン皮が混ざったメレンゲ。




真衣は大きな口でフォークを咥えた。





「んんん!
酸っぱくてさっぱりして、美味しいです!」




「うんうん、よかった」




「でも、これも違う気がします。
クリームの中に生地が埋まっちゃって、あんまりサクッとしないっていうか・・・」





玄師はにっこりと最後のケーキを差し出す。




そっと生地にフォークを入れると、真衣は目を閉じ、観察せずに舌だけで感じようとした。




チョコレートクリームの下にクランベリーのコンポートと大きめのチョコチップ、その下にはガトーショコラ。





「これは・・・大人の贅沢って感じ」





真衣の呟きを、オーブンの焼き上がりを告げるビーッという音が掻き消した。





「で、これが本命なんだけど」





玄師はオーブンから取り出したばかりのケーキを切り分ける。





「アラピフェルシュトゥルーデルっていう、オーストリアのアップルパイなんだ。
裏が透けて見えるほど薄く伸ばしたシュトゥルーデルに、砕いたビスキュイ、ナッツの粉、粉砂糖を置いた。
その上にリンゴ、シナモンを振って、バターをのせる。
あとはまた生地で包んで焼く」





解説しながら、玄師はアプフェルシュトゥルーデルの上に粉砂糖をたっぷり振りかけ、生クリームをのせた。




全体的に白っぽいその見た目に、真衣の胸がドキンと鳴る。




それは夢の中のイメージに似ていた。




白い部屋で白い服を着た人が差し出す、白いケーキ。




焼き立ての熱で、生クリームがとろりと溶けていく。





「どうぞ真衣さん、召し上がれ」

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作者名:井原 x他1人 | 作成日時:2020年6月14日 11時

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