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真衣は玄師の視線を追ったが、そこにあるのは厨房の明るい光から切り離された玄師自身の影だけだ。
真衣は立ち上がり、試食用のグラスを玄師に手渡す。
「玄師さん、ここに全部入ってました。
相手の名前)さんが今まで抱えていたもの全てが。
重いものも、嬉しいものも、悲しいものも、みんな全部。ここに詰まってました」
玄師が真衣からスプーンを受け取り、ゼリーを口に運ぶ。
「ああ」
溜息のようなひと声を発し、玄師は静かに目を閉じた。
「そうですね。
俺は今、このお菓子を作りたかった。
作るべきだった。
・・・このお菓子を作った道具は全部、美菜子のを使ったんだ」
「美菜子さんの・・・」
「美菜子が得意だったものを全部入れた。
ゼリー寄せ、ころんとした求肥、水切りヨーグルトを和に応用すること、それから手間も時間もかかる蘇」
懐かしそうに美菜子の思い出を語る玄師を見て、真衣は寂しそうに笑う。
「それと1番大事なイチゴ。
真衣さんのおかげで、俺はあの事故の日を乗り越えることができた」
玄師は真衣に手を伸ばし、その手を握る。
「真衣さん、一緒にイチゴを摘みに行ってくれてありがとう。
これからも、この店にいてくれますか？」
「勿論です」
玄師の体から力が抜けた。
真衣は笑顔で玄師の手を握る。
「そうだ玄師さん。
このお菓子の名前は？」
「アムリタ。
甘露と訳される、不老長寿の霊薬だよ。
このお菓子を食べた人が少しでも幸せに1日を過ごしてくれたらーーと思ってね」
真衣はアムリタのグラスをそっと撫でる。
「大丈夫です。
玄師さんの気持ち、このお菓子がちゃんと伝えてくれました。
私、今とっても幸せです。
お菓子のおかけで、幸せなんです」
玄師を見上げる真衣の目は溢れる滴で光っていた。
「きっと皆んな、アムリタが大好きになります。
美菜子さんの好きだったもの、玄師さんの思い、きっと伝わります」
玄師はそっと笑った。
・
・
翌朝、真衣は店のドアに貼り紙をした。
�爛▲爛螢拭⊃携�売！！��
腰に手を当て満足気に頷くと、真衣は店内に戻る。
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作者名：井原 x他1人 | 作成日時：2020年6月14日 11時
