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「薔薇の花びらの砂糖漬けを作りましょう」




暇な真衣は本格的に厨房に居座り、玄師の仕事を見つめることにした。



薔薇の花びらを1枚ずつ優しく取り、綺麗に拭きあげる。




「玄師さん。
薔薇の砂糖漬けって、なんだかマザーグースみたいですね」



「マザーグース?」



「ええ。
イメージが似ている気がします」



「薔薇は赤い、菫は青い、砂糖は甘い、そうしてキミも・・・か。
たしかに甘い感じだね。
菫も砂糖漬けにするし」



「赤と青の花びらなんて、女の子が喜んじゃいますね」



「今日は薔薇しかないけどね。
はい真衣さん、出来立てをどうぞ」




真衣はピンクの花びらの砂糖漬けを噛みしめた。




「甘くてちょっと苦くって、薔薇の香りで。
これって恋の味ですね」




















































1週間後。



玄師が薔薇のお酒を漉していると、真衣が覗きに来た。




「お店の方まで薔薇酒の良い香りがします」



「それは凄い。
熟成させたら、どれだけ濃厚に香るんだろうね」




広口瓶から出た花びらは、色が抜けて真っ白になっている。



その抜けた色と香りは、全てが酒に溶け出していた。



瓶の中には薔薇色のとろりとした液体だけが残されている。




「ちょっと舐めてみましょうか」




玄師は食器棚からクリスタルの小さなグラスを2つ出し、薔薇のお酒を数滴ずつ入れた。



1つのグラスを真衣に手渡し、軽くグラスを合わせる。



クリスタルが澄んだ高い音を立てる。



グラスを持ち上げ、陽にかざして向こうを覗くと、世界は薔薇色に染まる。



真衣は自分が薔薇色に輝いていることに気づいた。



それは、胸にしまった大切な気持ちが隠しきれずに溢れたかのような輝きだった。



2人はグラスを傾けて、薔薇酒を口に含む。



ころころと舌の上でピンクの液体を転がすと、口の中から全身に薔薇の香りが広がった。



全身を優しさが満たしていく。




「玄師さん・・・。
これ、乙女のお酒ですね」



「そうだね。
でも、どうしよう。
バレンタインのチョコって男性に贈る物だよね。
これを貰った人は喜ぶかな?」




真衣は確信を持って頷く。




「乙女心をプレゼントされて嬉しくない男性がいます?」




玄師は納得して笑顔を見せた。

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作者名:井原 x他1人 | 作成日時:2020年6月14日 11時

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