【名探偵コナン】Hyper Ventilation【降谷零】 (ページ18)

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17.天秤ページ18

「君が欲しい」

は？と思わず素で口から漏れた。
目の前に立つ赤井秀一は、場合によっては事案というか、誤解されかねない爆弾発言を投下したことは分かってるのだろうか。

「FBIに引き抜きたい。お前ほどの優秀な人間を引き抜く為に、公安もFBIも今必死でな」

……まあそんなことだろうとは思っていたけれど、言い回しが誤解を招く言い方をするものだから心臓に悪い。
本人は自覚してるのは知らんが、まあ多分、この言動や言い回しで誑かされた女はきっと少なくないのだろう。

「優秀とは言っても、私は人を殺すことに長けているだけだよ」

「使い方次第だ。人を殺す力でも、使い方次第では誰かを救う。対人戦や情報戦、多種多様の武器や機械の扱いに長けているお前を、手離すのも見過ごすのも惜しくてな」

「大人って本当に汚い」

「もちろん、それ相応の報酬はあるさ。大人の世界はこんなものだ」

だろうね。
組織もそうだった。時に無理難題の任務を押し付けて来て、それをやっとの思いでやり遂げれば、それ相応の報酬はあった。
……まあ私が望んだ報酬は休暇だったけれど。殺すのが、殺す日が1日でも少ない方が、心が楽で。

「どうだ、FBIに来る気は無いか？証人保護プログラムの管理下で、お前の身の安全は保障するし、何より日本だけじゃなく、外の国でその力を伸ばすというのも良いとは思うがな」

「……いきなりそう言われても」

連日、公安とFBIが何かを言い争っているのは知っていたが、まさか私自身の事でとは。

「組織の残党がお前を取り戻そうとする可能性だって無いわけでも無いだろうしな。証人保護があるこちらでなら、悪くは無いと思うが」

「随分と口説いて来るけれど、なんなんだ急に」

「話し合いに決着がつきそうにないからな。ならばとお前の判断で決めろとの事だ」

……なるほどな。それで引き抜こうと口説いて来るわけだ。

「もうちょっとマシな誘い文句一つでも考えて来たら。」

「つれないな」

それ以上は相手をする気がなくてその場を後にする。

(どうも、裁いてはもらえないらしい)

私の力を利用する。欲しがる。殺すには惜しい。そんな理由で。

(利用されるのはいい。慣れている。けれど、殺されないのは私が子供だから？)

私が今まで殺して来た命は、私の一つの命だけで、釣り合うような重さじゃないのに。

脳裏に浮かぶのはあの日の光景。
銃口を向けた先に見えたあの怯えた顔。

私の心に、善悪の違いを、思い知らされた、あの日。