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87話 ページ7

・降谷視点

ハンドルに頭を預けながら、隣に座るAの手を握る。
こんな女々しいところなんて本当は見られたくなかった。それでも我慢ならなかった。
本音を漏らすなら、多分もう今しかないと思ったから。

手を払われるかもしれないと思ったが、Aは握り返してくれて、それがたまらなく嬉しかった。

いつも置いていかれてばかりだった。
先へ先へと行ってしまって、追いかけても追いつかなくて。それでも漸く、その手を掴めそうなほど追いつけそうだと思ったのに、遠い場所へと行くだなんて。

……幼い頃の記憶を思い出す。
「バイバイだね」と言って遠いところへと行ってしまったあの人のことを。

唇を噛み締めた。実際にこいつは、あの人と同じ場所へと逝きかけたのだ。
それで余計に、こんな感傷的になっているのかもしれない。

「………君は、私の事が嫌いなんじゃないの」

「……ッ、そんな訳、ないだろう…!!」

顔を上げて、右手だけじゃなく左手も握った。
目が、合わない。下を俯いているAは何処か苦しそうだった。

「君が言ったんじゃないか。私の事が嫌いだと。辛かった、私、私のことを追いかけてくれていたのなんて、ずっと君くらいだったんだ。そんな君に、面と向かって、嫌いだって言われた時、私、凄く苦しかったんだよ」

「ちが、俺は、」

「嫌いなくせに、どうして優しくしてくれるんだ。縋らせてくれるんだ。…縋ってもいいって言われた相手に、嫌われている私の気持ちが、君にわかるのか」

ずっとこいつは引きずってきたのだ。10年も。
俺が大嫌いだと言ったあの発言をずっと。それはそうだ。こいつの立場になってみればわかる。意味がわからないんだろう。嫌いだと言っていたのに、どうして縋ってもいいなんて言うのか。

「ここを発つ前に、未練だらけになったらどうしてくれるんだ。期待させるだけなら、嫌いなら、私を、私に優しくなんてしないでよ…!!」

その叫びを聞いた瞬間、俺は助手席に叩きつけるようにAの上に乗り上げた。
優しくするな、なんて、お前こそどうして、俺がここまで漏らしているのに気付きもしないんだ。

「じゃあ、教えてやる。嫌いな女相手に、俺は毎日病室に通ったりもしない。縋ってもいいと言わない。……抱き締めたりもしない」

こんな事だって、勿論。

何かまた言おうとしたAの口を、衝動のままに俺は自分のそれで塞いでやった。

後で何とでも罵倒されても良かった。
今はただ、信じて欲しかったんだ。

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るか(プロフ) - 続編と番外編が気になりすぎてて夜も寝れないくらい気になってます!!パスワードを教えていただきたいのですが可能でしょうか、? (5月7日 4時) (レス) id: 50222dda5e (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 続編と番外編が読みたいのですが、パスワードって教えていただけないのでしょうか? (2022年4月22日 15時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
あいる - 初めまして!!こんな神作初めて出会いました。ほんとにほんとに素敵です。お気に入り作者にしてしまいました。パスワードのヒントと作品にてオススメという形で載せたいのですがダメでしょうか?? (2020年11月14日 23時) (レス) id: 23cef4f251 (このIDを非表示/違反報告)
眠猫 - 番外編のパスワード載ってないので教えてくれないでしょうか?作者作品一覧に載ってるのは違う番外編のパスワードのようなので……… (2019年1月28日 18時) (レス) id: b6571f87b9 (このIDを非表示/違反報告)
神無月(プロフ) - 作者の作品一覧の所にパスワードというか、ヒントが載ってますよ (2018年4月22日 19時) (レス) id: 7b5ab892e2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年12月16日 21時

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