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113話 ページ35

好きだとは言えなかった。

それはきっと私が意気地なしなんだろうし、それに日本を発つ前に名残惜しくなるのは嫌だったのだ。
けれどきっと、後から後悔するんだろうな。あの時想いを伝えられたら良かったと。伝えるのなら、きっと今だったのだろうと。

……でも今の私にはこれが精一杯だ。

最後だから、踊りたかった。降谷と一緒に。
せっかくこんな姿なのだから、どうせなら君と一緒に踊りたいと思ったのだ。
差し出した手を拒絶されるかもしれないという恐怖が湧く前に、その手は握られた。優しく握られて、手を引かれる。
存外、顔が近付いた降谷に少し驚くが、額を合わせられた後に、「こういうのは男が誘うものなんだぞ」と呆れたように言われた。

「こんな良い女に誘われたら、断る男なんていない」

「……はは、君も十分良い男だよ」

「そうだろう?だってお前に追いつくために、この10年己を磨いて来たんだ。そんじょそこらの男なんかよりもずっと良い男に決まってるだろ」

ゴツゴツとした男の手が、腰に回るのが分かった。それを合図に踊る。踊る。
どちらが何かを言うわけでもなかったのに、息も相性もピッタリだった。

2人しかいないのに、大きなホールだと言うのに、存外に満ち足りて、楽しかった。不満なことなど何もないくらいに。
2人だけなのに満ち足りているなんて、──いや、そうか、君とだからか。君がいるなら良かったのか。

こんな事に10年も気付けなかったなんて、私は本当に乏しくて、疎くて、何も気付けなくて。



さあ踊りましょう。
過去も何もかも今は投げ捨てて。積もり積もった因縁と、過去は全て清算して。
漸くここまで来れた。ここに来るまで時間がかかりすぎたけれど、きっともう、大丈夫だ。

好きでした。ずっと。

今は言えない意気地なしだけれど──それでもどうか、想うくらいは許してほしい。

呪いのような運命だった。
きっと初めて会った日から、私の運命は決まっていたのだろう。
私の後を追い続けて、私に勝とうと躍起になって。
そんな事するのは、後にも先にも君くらいだったんだ。



─────ええ。そんな貴方だから私は好きになったのです。



多分、人生で一番幸せな時間だったと思う。
数分しかない時間であったとしても──それでも、私にとっては一生忘れがたいものになったんだ。



そしてもしも許されるのなら、全てを終えて戻って来たときには、



誰にも打ち明けたことのないこの想いを、






君に、

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ちゅん(プロフ) - 続編と番外編が読みたいのですが、パスワードって教えていただけないのでしょうか? (2022年4月22日 15時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
あいる - 初めまして!!こんな神作初めて出会いました。ほんとにほんとに素敵です。お気に入り作者にしてしまいました。パスワードのヒントと作品にてオススメという形で載せたいのですがダメでしょうか?? (2020年11月14日 23時) (レス) id: 23cef4f251 (このIDを非表示/違反報告)
眠猫 - 番外編のパスワード載ってないので教えてくれないでしょうか?作者作品一覧に載ってるのは違う番外編のパスワードのようなので……… (2019年1月28日 18時) (レス) id: b6571f87b9 (このIDを非表示/違反報告)
神無月(プロフ) - 作者の作品一覧の所にパスワードというか、ヒントが載ってますよ (2018年4月22日 19時) (レス) id: 7b5ab892e2 (このIDを非表示/違反報告)
夢雪 - 番外編を読みたいのですが、パスワードがわかりません。どうすれば?…… (2018年4月21日 21時) (レス) id: a2e26e90a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年12月16日 21時

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