109話 ページ31
「……私は死者の言葉なんて語らない。けれど予想ならすることは出来る。」
自分が死んだ後に、記すことで男の元へと送られてきた遺書。
全ての真実を、遺書の中でようやく明かしたこの男の妻は、どんな気持ちで書いていたのだろう。
書いていた時の気持ちはわからない。分からないが、それでもきっと最期まで、こう思っていたはずなのだ。
……『生きていてほしい』と。
助けを求めることならきっと、いつだって妻は出来るはずだった。
だが、監視されてる身。そして命を握られている身。…この男の妻への深い愛情を見てわかった。真実を知れば、きっと花菱に立ち向かうのだろう。
そうすればもう、2人もろとも殺されるのは目に見えている。
きっと妻は、それだけは絶対に避けたかった。
だから絶対に真実を知られない様にした。ほぼ別居状態の中、たまにしか会えない時間、暴力を振るわれていたのに、表面上は何も変わらなかったと、この男は言った。
……そうだ。知られたく無かったのだ。
自分がこんな目に遭っている事じゃなくて、男が全てを知って、自分を守る為に死ぬようなことが、ない様に。
男は最期まで妻に守られていた。ただ生きていてほしい。生きて欲しいから巻き込みたく無かった。
けれども耐え切れずに、妻は自死を選んだ。けれども理由の無い死はきっと、この男は深く悲しんでしまう。
だから、遺書に全てを記した。
……言葉足らずだったのかも知れない。妻の生きて欲しいという願いは届かず、男の復讐心を目覚めさせてしまった。
…ただの想像に過ぎない。
けれども私がそう言えば、男は私の顔を見た後に、見開かれた目から大量の涙を流し始めた。
何を思っているのかは分からない。
けれど何も言わなくなったあたりから、色々と合点がいったのかも知れない。……守られていたのだと、実感したのかも知れない。
「そんなの、俺だって、俺だって…！！」
生きていて、欲しかった。
お前と死ねるならそれでも良かった。
嗚咽を漏らしながら口にした、妻への深い愛を零しては消えていく。
………私も泣きたくなるほどに、この夫婦は互いを愛していたんだ。
ぽたぽたと涙が床に水溜りを作っていくのを見ながら、私は弾き飛ばされた花菱の自宅の爆弾のボタンと、ここの爆弾のボタンを回収した。
「……だから、生きて償うんだ。」
それが、きっと貴方の妻の願いだよ。
そういえば、もっと大きくなった嗚咽を男は漏らした。
私も何も言わなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1026人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るか(プロフ) - 続編と番外編が気になりすぎてて夜も寝れないくらい気になってます！！パスワードを教えていただきたいのですが可能でしょうか、？ (5月7日 4時) (
レス) id: 50222dda5e (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 続編と番外編が読みたいのですが、パスワードって教えていただけないのでしょうか？ (2022年4月22日 15時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
あいる - 初めまして!!こんな神作初めて出会いました。ほんとにほんとに素敵です。お気に入り作者にしてしまいました。パスワードのヒントと作品にてオススメという形で載せたいのですがダメでしょうか？？ (2020年11月14日 23時) (レス) id: 23cef4f251 (このIDを非表示/違反報告)
眠猫 - 番外編のパスワード載ってないので教えてくれないでしょうか？作者作品一覧に載ってるのは違う番外編のパスワードのようなので……… (2019年1月28日 18時) (レス) id: b6571f87b9 (このIDを非表示/違反報告)
神無月(プロフ) - 作者の作品一覧の所にパスワードというか、ヒントが載ってますよ (2018年4月22日 19時) (レス) id: 7b5ab892e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遥
| 作成日時：2017年12月16日 21時
